中国で“無差別殺傷”頻発 地元当局が注視“8種類の「失った人」” 経済失速…閉塞感が拡大か
2)地元当局が報告を指示した、8種類の「失った人」
香港の新聞、星島日報の報道によると、広東省当局は各地域の組織に対して、「投資に失敗した人」「失業者」「生活に失望した人」ら、8種類の「失った人」について詳しく調査・報告するよう指示を出した。類似の事件を防ぐことが目的とされる。 「失った人」、社会の中で不安定な状況にある人に対する調査の指示を、阿古智子氏(東京大学大学院教授)は、以下のように分析する。 本来ならば政府がサポートすべき人たちを、監視して何かことを起こさないように管理する。そういうやり方があったからこそ、これだけの多くの事件が起きているかもしれないのに、また同じように管理を徹底しろと地方政府が指示しても、非常に難しいところがある。地方政府は財政が悪化している。公務員の給与の未払いや、生活保護や社会保障が支払われないといったケースもある中で、どうやって予算的な措置をするのか。具体的にどういう策を講じていけばいいのか。 柯 隆(かりゅう)氏(東京財団政策研究所主席研究員)は、事件の背景にあるとされる中国経済の失速を以下のように分析する。 経済とは何かというと、まずパイを大きくして、それからできたパイを公平に切り分けることだ。経済が上り坂の時には、「失った人」とされる社会的弱者は、存在するけれども浮上はしてこなかった。なぜかというと、上昇・成長する時にはいくらか分配があるから。ところが、今の中国経済は下降局面で、低所得層の弱者たちには分配がなくなっている。基本的な生活保障も整備されていないので、絶望して「誰でもいいから」と、いわゆる典型的な通り魔事件に走ることになるのではないか。 無差別殺傷事件と関連し、中国のネット空間で注目されているのが、社会に対する報復を意味する「報復社会」という言葉だ。11日の自動車暴走事件の発生翌日から検索回数が急増している。 阿古智子氏(東京大学大学院教授)は、事件の背景には、様々な圧力を感じている人が多いと分析した。 国からは子供を産め、結婚しろと言われ、家でも両親の恩に報いなければいけない。頑張っていい学校に行かなければいけないし、就職もいいところに行かなければいけないと。一方で大学入試でも地域によっては点数が異なるなど、非常に差別的な制度がある。社会的な圧力を変えるには政策や法律など、全体を変えていかなければいけないが、1人の力ではどうにもならない。今までは市民団体やNGOが沢山あったが、政府が圧力をかけて、そのような組織も苦しんでいる人たちを支えることができない。どこに自分の気持ちを伝えたらいいのか、非常に追い詰められた人たちが、犯罪に手を染めてしまっている可能性がある。