期待に応える新機軸 『マッドマックス:フュリオサ』世紀末から横たわる現代への思索
エンジンの轟音、そのすさまじい音圧。『マッドマックス:フュリオサ』は、映画が始まった瞬間から、世界中が熱狂した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の世界へと観客を連れ戻してくれる。 本作は、『怒りのデス・ロード』でシャーリーズ・セロンが演じた女戦士・フュリオサの若き日を描いた前日譚。フュリオサ役には、セロンに代わって『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)や「クイーンズ・ギャンビット」(2020)などで知られる若手スター女優、アニャ・テイラー=ジョイが新たに起用された。 オーストラリアが生んだ巨匠監督ジョージ・ミラーは1945年生まれ、いまや御年79歳。しかしながら本作を観ると「巨匠」という肩書きはどうも似合わないように思われる。前作同様パワフルでエネルギッシュ、同時に前作とは異なるストーリーテリングに挑むその手つきは、今でもミラーを「現役の鬼才」たらしめている。
女戦士フュリオサの16年間
核戦争によって地球は荒廃した。土地のほとんどが放射能に汚染された砂漠と化した今、「緑の地」は真水がとれ、人びとが以前に近い生活を送ることができる数少ない場所となった。その穏やかな生活を守るため、誰にも「緑の地」の場所を悟られてはならない‥‥。 ところがある日、「緑の地」の存在を知ったバイカーたちによって、少女・フュリオサは誘拐された。フュリオサは必死に抵抗し、母・メアリーも娘を救おうと追跡するが、フュリオサはバイカー軍団の拠点まで連れていかれてしまう。組織を牛耳るのは、かつて家族を失った将軍ディメンタス(クリス・ヘムズワース)。無惨にもメアリーは殺され、フュリオサはディメンタスの養子となった。 しかも、あろうことかディメンタスは対立するイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)との政治的取引にフュリオサを使うことにした。自らに有利な条件を引き出すため、イモータン・ジョーの要塞「シタデル」に、フュリオサを奴隷として置いていかれてしまったのだ。 冒頭に触れたとおり、本作『マッドマックス:フュリオサ』は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚。したがって世界観や設定、一部の登場人物は共通しているが、物語は独立しているため、特別な前知識はなくとも十分に楽しめる構成だ。 そもそも本作の脚本は、ミラーが前作を手がけるためにあらかじめ執筆していたもの。『怒りのデス・ロード』を未見の方は、あえて『フュリオサ』を“第一章”として鑑賞してから、続いて『怒りのデス・ロード』を“第二章”のように観てもまったく問題ない。 興味深いのは、『怒りのデス・ロード』がわずか3日間の物語だったのに対し、本作はフュリオサの10歳から26歳までの16年間を描いていること。「これはある子どもが故郷から連れ去られてしまい、何があっても故郷に帰ることを誓うという物語だ。そして、彼女は人生を賭けて故郷への帰還をめざす」と監督・脚本のジョージ・ミラーは言う。