「不便」の中から「益」を見いだそう…それが、やりがいにつながる【科学が証明!ストレス解消法】
【科学が証明!ストレス解消法】#191 「不便益」という考え方があります。京都先端科学大学の川上浩司教授らによって提唱されている「不便だからこそ得られる益」があるという考え方です。 苦しむわが子を理解し、寄り添うにはどうすべきか? 川上教授は、セル生産方式という工業製品の組み立て手法を研究している方ですが、セル生産方式では、作業員が1台の自動車を1人で組み立てる方法を採用しています。効率的な作業とは対極にある方法ですから、皆さんは、「そんなことをして何になるの?」と思われるかもしれません。 しかし、セル生産方式の作業員は、この方法によってやりがいを感じ、スキルアップを実感しているといいます。不便な手法を採用するからこそ、モチベーションの向上やスキルの向上というメリットが得られているというわけです。 私たちは、つい効率の良さや最適解を求めがちです。しかし、それを求めるがあまり、悩み、躊躇し、疲弊します。であれば、「最適解でなくてもいい」というマインドを持つことができれば、もっと気持ちが楽になるはずです。 そうした考え方の添え木となるのが、不便の中に益を見いだすことができる「不便益」という考え方です。当初は、間違った選択だったと感じていたことも、その後の自分の行動次第では、「結果的に良い判断だった」と思うことができます。 例えば、「友人との旅行先でレンタカーを借りたものの、カーナビが壊れていた」という出来事に遭遇したとしましょう。そのとき、「不便過ぎてムカついた。口コミサイトで悪いレビューを付けてやる」と怒ってイライラするよりも、「あれこれみんなと道の相談をしながらドライブできて楽しかった。こんな体験はナビが壊れていたからだ」と感じるのとでは、まったく異なります。不便の中でも益を見いだした後者は、同じシチュエーションでも、受け取る感覚や頭の中に残る景色が変わるのです。 「不便益」は、単に過去のノスタルジーを求めるものではなく、不便さを通じて得られる新しい視点や可能性を探ることに意義があります。シチュエーションが、「正」よりも「負」に傾いているような状況でも、その中から益を見つけることができる人は、どんな選択をしても楽しめる。想像していたよりも道のりが遠かった険しい旅が、「苦行」になるか「珍道中」になるかは、あなた次第だということです。 想像してください。苦しい運動をしているときと、友人とわいわい楽しい運動をしているときを。前者は、面白くなく疲れが一気にたまるような感覚を覚えますが、後者は疲れを忘れるくらい楽しいはずです。 考え方も同じです。益を見いだせない考え方は苦しく、疲労を感じます。しかし、益を感じられるような考え方であれば、脳は好意的に働きます。たとえ“間違った判断”だったとしても、小さな益を見つけることができれば、ズルズルと引きずられずにすみます。 それこそが、最適解や効率を求めがちな現代社会において、自らに負荷をかけない賢い考え方と言えるのです。 (堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)