磯村勇斗×黒木華『八犬伝』インタビュー 二人が思う才能の支え方、転機をくれた恩人の言葉とは
映画『八犬伝』で初共演を果たした磯村勇斗と黒木華。役所広司演じる『南総里見八犬伝』の生みの親・滝沢馬琴を父に持つ宗伯と、その妻・お路を演じている。 のちの作品に多大な影響を与えた名作を書き上げた一方で、妻・お百からは気の滅入るような嫌味と愚痴をぶつけられていた馬琴。そこには、アーティストとその家族のあり方の難しさが垣間見える。表現の道を歩む磯村と黒木は、馬琴とお百の関係に何を思っただろうか。 【撮り下ろし写真多数】映画やドラマで唯一無二の存在感を放つ黒木華、地元・静岡での映画祭立ち上げも話題の磯村勇斗
嫁いできたという覚悟がお路の原動力だった
──お二人は本作が初共演ですが、お互いに対してどんな印象をお持ちでしたか。 磯村:いろんな作品を拝見していて、魅力的な女優さんだなという印象があったので、クランクインする前からご一緒できるのが楽しみでした。 黒木:私もです。本当にいろんな役をされていらっしゃるじゃないですか。すごく引き出しの多い役者さんだなという印象があって。だからこそ、ご本人がどういう方か見えてこないというか。 磯村:そう言ってもらえるのはうれしいですね。 黒木:私自身、そういった役者さんが好きなので、ご一緒するのが楽しみでした。ただ、残念ながらあまり一緒のシーンはなかったんですけど。 磯村:そうなんですよね。今回、二人で同じ場面に出ていることがほとんどなくて。 黒木:だから、あんまり現場でお話しもできなかったですよね。 磯村:何かのときに、黒木さんがお菓子を食べいらっしゃって、これ美味しいっておっしゃっていませんでした? 黒木:そんなことありましたか(笑)。 磯村:そのとき、僕にも美味しいですよと声をかけてくださって。それはすごく覚えています(笑)。 黒木:本当ですか。どうやらそんなことがあったみたいです(笑)。 ──偏屈な父・馬琴と、ヒステリックな母・お百に挟まれて育った宗伯。磯村さんは宗伯をどう演じようと考えながら現場に入りましたか。 磯村:いちばんは、父の馬琴に対し、どれだけ忠誠心と敬意を持っていられるかですね。特に青年期の最初の頃はそこが大事だったので、現場では役所(広司)さんの言葉をしっかり受けて、ピシピシペコペコしていようと。 ──父にいろいろと無茶を言われて、「だったらご自分でおっしゃってください」と半泣きで反論するところが、実にキャラクターが出ていました。 磯村:あれは、彼が頑張って言えた唯一の反論なんじゃないですかね(笑)。 黒木:可愛い(笑)。 磯村:きっとドキドキしながら言ったんでしょうね。そこから年齢を重ねていくにつれて、宗伯は病に冒され、体が弱っていく。そこのニュアンスをしっかり立てることができれば、この物語における宗伯というものは見えてくるんじゃないかなと考えていました。 ──そんな宗伯に代わり、失明した馬琴の執筆を手伝うのが、宗伯の妻・お路です。控えめそうに見えたお路ですが、馬琴の厳しい言葉にも負けずに喰らいついていきます。彼女の原動力は何だったと思いますか。 黒木:まずは嫁いできたという覚悟ですよね。今とは時代が違いますから、夫の家に入る重みも全然違っていたんだと思います。それに、お路はずっと馬琴さんや宗伯さんが命を懸けて物語を書き続ける姿を見てきた。この物語を完結させることが、この家に嫁いできた私がするべきことなんだという想いがあったんだと思います。 ──そう考えると、あまり感情を表に出す人ではないですが、お路はとても強い女性だった気がします。 黒木:芯の強さがありますよね。愚痴も文句も言わず、粛々とやるべきことをやっていますし。 磯村:内心ではすごい溜めていたんだろうなと思います(笑)。だから、夫としてはちょっと申し訳ないです。アクの強い義理の両親に挟まれて。宗伯が元気だったら、もっといろいろ変わっていたんでしょうけど。 ──劇中では、二人の夫婦生活が描かれることはほとんどありませんでした。お二人は、宗伯とお路はどんな夫婦だったと思いますか。 黒木:お路は性格的にもそんなに前に出る人間ではないので、馬琴さんのお手伝いをする宗伯さんの邪魔をしないようにしていたんじゃないかなとは思いました。 磯村:宗伯としても妻への愛情はちゃんと持っていたとは思うんですけど、それ以上に父親との関係性が濃くて。馬琴の手伝いをすることに気持ちが傾きすぎて、どこか家庭を忘れてしまう瞬間はあったんじゃないかという気がしますね。 黒木:それはあるかもしれません。でもきっとお互いそばにはいたと思うんですよね。そして、お路はそれが妻の自分にできることだと考えていたんじゃないでしょうか。 磯村:そうだとありがたいですね。家族の時間はなかなかとれなかったかもしれないですけど、しっかり愛はあったし、いつも支えてくれるお路の優しさは宗伯もちゃんと感じていたと思います。