磯村勇斗×黒木華『八犬伝』インタビュー 二人が思う才能の支え方、転機をくれた恩人の言葉とは
もし仕事とどっちが大事?と聞かれたら
──馬琴は芸術家として後世に名を残すほどの成功をおさめましたが、お百を見ていると夫婦仲はあまり良いものではなかったように思います。時にプライベートを犠牲にすることもあるアーティストとその家族のあり方について、お二人はどんなことを感じましたか。 黒木:アーティストって、基本的に面倒くさい人たちが多いと思うんですよ(笑)。 磯村:あはは。 黒木:でも、本当に人によると思っていて。支えがあった方がうまくいく人もいるでしょうし、孤独に道を極める方が性に合っている人もいるでしょうし。馬琴に関しては、お百の支えがあったから、執筆に集中できたと思うんですよね。家のことは、全部お百がやってくれていた。お百がいなかったら、馬琴がどうなっていたかはわからないですよね。 磯村:逆に、同じアーティスト気質な人同士だとうまくいってなかったかもしれないですよね。だから、こればかりは本当に難しいところだと思いますけど。自分自身を表現者として捉えると、僕も馬琴側なので、自分の世界に入っていく感じに共感はするんですけど、もし家族がいたならば、きっと悲しい思いをさせてしまう瞬間があるんだろうなと思う。だから、一緒にいる人がヒステリックになる前にちゃんと家族の時間をつくらなきゃいけないなって思いますよね。 黒木:家族ですからね。ちゃんとケアすることは大事だと思います。お百ももっと馬琴と過ごしたかったでしょうし。 磯村:そのバランスがちょっと不器用ですよね、馬琴は。 黒木:そうですね。もちろん時代もありますけど。ただ、お百は馬琴の才能のすごさもよくわかっていたんじゃないかと思うんですね。だから、あんなにブツブツ文句を言いながらも離縁しなかった。才能を持っている人ってやっぱり魅力的ですから。 ──才能に惚れちゃうと、もう降参みたいな感じはあります。 黒木:何やられても「だって好きだし」と思っちゃいますよね。私自身が表現する側にいる人間なので、才能を持っている人に対しては男性女性かかわらず惹かれます。 磯村:僕も才能には弱いです。特にそれが自分の尊敬できる分野だと、その人がそれにのめり込んでいても、そっと見守っちゃうんじゃないかな。それか、自分にできることがあるならお手伝いもしたいし応援もしたい。周りにそう思わせてしまうところが、その人の才能であり魅力でもあるんですよね。 ──では、そんなお二人は「仕事と私、どっちが大事?」と聞かれたらどうしますか。 黒木:私、ちょっと面倒くさいなって思っちゃうかもしれないです(笑)。 磯村:僕もその質問がいちばん嫌ですね(笑)。 黒木:仕事と私、同じ天秤に載せる? みたいな。だって選びようがないじゃないですか。 磯村:ないですよ。 黒木:そう思うなら、もう一緒にいるのをやめた方がいいのかなってなっちゃいますよね。でも、仕事を頑張る姿も含めて好きになってくれたはずだから、おざなりにしすぎてるんだろうなって。だからその言葉が出ないように努力はします。 磯村:僕はその言葉を言われたら何も言えないかも…。引いちゃうかもしれない。そういうふうに見てるんだって。 黒木:うん。 磯村:だから、そのまま言っちゃうかも。「あ、そういうふうに見てるんだ」って。 ──お二人はどの役をやっても、その人にしか見えないお芝居をされます。撮影期間中はどうやって役と自分のバランスをとっているんですか。 黒木:あのシーンはどうしたら良かったのかなと考えることはありますけど、基本的にそんなに引きずらないですね。撮影が終わったらもうそのシーンは終わりなので。メイクをとって、よし帰ろう! みたいな(笑)。 磯村:いいなあ。 黒木:考えてはいますよ。考えてはいるけれど。高校演劇をやっていたときに、先生から「冷静な自分を持ってなさい」と教えてもらったことがあって。 磯村:素敵な言葉ですね。 黒木:常に第三者の目線を持ってやりなさい、ということを最初の頃に教えてもらっていたので、役を引きずるという時間が短いのかもしれないです。 磯村:僕は結構その日はずっと考えちゃう人間なんですよね。家に着いても、ご飯どうしようとか考えつつ、お芝居のことも考えてみたいな、わりと行ったり来たりしている感じで。 黒木:そうなんですね。 磯村:ただ、寝て次の日になったらスッキリするタイプです。そしたら新しいアイデアが浮かんできたり、悩んでいたことが大したことないなと思えたり。だから、寝るのがいちばん。あとは部屋の窓を開けたときに季節の匂いが風に乗って運ばれてくるのが好きで。よく窓を開けてボーッとしながら頭を休めるようにしています。