大学中退、就職もしないけど、自分ができることを頑張ればいい。刺しゅう作家・神尾茉利さんが時間をかけて見つけた一番の喜び
刺しゅう作品「ひみつのはなし」制作、展示、販売、ワークショップ開催…「人生は自分のもの」であることを実感した20代
この時期に、刺しゅう作品「ひみつのはなし」の制作がスタート。“言葉を持たない物語”をコンセプトにカラフルで生き生きとした動物たちを生み出していきます。自身の作品の展示や販売、ワークショップを始めたのもこの頃でした。 「当時はワークショップがそれほど多くなく珍しかったと思います。自分の作品を個展やデパートの展示で販売もしました。いろいろ挑戦して、“自分の10年にするぞ”という気持ちに溢れていたんです。今まで感じなかった“それって本当?”“こうだったらどうなる?”みたいな疑問が生まれたのも、この頃。ひとつのものや出来事が、人によって異なる見え方をしていると気づきました」 1人になって自分に向き合ったことで確立したアイデンティティ。自分から行動を起こし、作品を作り始めたことが新たな学びや気づきをもたらしました。この時期の制作活動が、今の神尾さんの土台になっています。 「親の期待を裏切らないように、ずっと親の価値観に影響を受けて生きてきたのかもしれないですね。初めて自分で生きるという選択をした気がします。刺しゅうという表現で自分を伝える、それによってグッと自分らしく生きられるようになりました。また大好きな東京で暮らそうと思えたのも、この気づきがあったからだと思います。人生は自分のもの、それを実感した20代でした」
自分が苦手なことが他の人が苦手とも限らない。できないことは人にやってもらい、自分ができることを頑張ればいい
現在は作家活動と並行して、5歳のお子さんの子育てを楽しんでいる神尾さん。朝幼稚園に送り出し、お迎えに行くまでと、週末を制作の時間に充てています。仕事でもプライベートでも大切にしていることが「人を頼る」ことです。 「大学を辞めた時、“自分はなんて何もできないんだろう”とすごく落ち込みました。大学も卒業できず、就職もしない。そんな時に気付かされたのは“できる人がやればいい”“自分ができないことはできる人がやればいい”考えでした。自分が苦手なことが他の人が苦手とも限らない。できないことは人にやってもらい、自分ができることを頑張ればいい。 家庭でも子育てでも同じですよね。自分がてんてこ舞いになる前にお願いすること。そのためには普段からコミュニケーションを取っておくことも大事ですよね。その余裕をいつも作っておきたいですね」