大学中退、就職もしないけど、自分ができることを頑張ればいい。刺しゅう作家・神尾茉利さんが時間をかけて見つけた一番の喜び
中高の恩師との出会いがきっかけで「映画の衣装デザイナーになりたい」という新しい夢を見つける
その後、中高一貫校に進学。将来は、母親と同じように「いつも家にいるお母さんになりたい」と思っていましたが、進路や就職の話題が現実的になるなかで、「自分も何か別の夢を考えないといけないのかな」と感じたそう。好きな科目は美術。そこでの出会いが、新しい夢を見つけるきっかけになりました。 「美術の先生の中に現代美術家の椿昇先生がいました。学校は好きじゃないけれど、美術は好きだったので、先生がいた教官室によく出入りしていて。先生とは共感することが多く、話がとにかく楽しかったです。おすすめの映画を観るようになって、映画『ザ・セル』と出会いました。衣装が舞台装置になり、物語を進める大きな要素になっていることに驚きました。その衣装デザインを担当していたのが石岡瑛子さんです。衣装デザイナーという仕事や、映画における衣装の存在感、日本人が海外で活躍していることを知り、将来は“衣装デザイナーになりたい”と思うようになりました」 先生から美術大学への進学を勧められ、高校卒業後は東京へ。美大に進学するための予備校に通いながら、浪人生活を1年過ごします。 「予備校時代にデッサンや色彩の基礎を勉強しました。ずっと学校が嫌いでしたが、予備校は本当に楽しくて初めて学校が好きになりました。知りたかったことを、やっと学べた感もありますね。そこで会う仲間は、美大を目指す人ばかりで同じ境遇や同じ志を持つ仲間。気が合う人ばかりで楽しい時間でした」
目標の美大に合格・進学したものの「ずっと自分ではない他人の価値観で生きてきた」ような気がして退学、自分を見つめ直す
予備校を経て、目標の美術大学に合格。テキスタイルデザインを専攻し、染色、織り、シルクスクリーンなどを学びます。勉強を続けていくうちに、ふと「自分は何をやりたいんだろう」という気持ちが生まれてきます。 「これまで何も疑問を持たずに生きてこられたせいか、自分が何をやりたいのかよく分からなくなってしまって。ずっと自分ではない他人の価値観で生きてきたような気がして、どうしていいのか分からなくなりました。 大学の授業では、科目ごとに先生がいて、その先生が評価を決めます。先生の好みに合う作風であるほど評価が高くなるように感じて、“これは一体何を作っているんだろう”と疑問にも思って。先生に評価されることに意識が向いて、やりたいと思っていることを自由にできなくなってしまう自分もいました」 迷った結果、3年間通った大学を1年休学。その後退学することに。実家のそばへ引っ越し、自分と向き合う時間が始まります。