【9月末までに1回目を】無料接種がもうすぐ終了!「HPVワクチン」の予防効果と副作用を医師が解説
「子宮頸がん」は、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンで予防できるがんです。1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性は、現在キャッチアップ接種が行われていますが、無料でワクチンを接種できるのは2025年3月までです。この時期を過ぎると有料になってしまいます。HPVワクチンをご自身でも接種したと話す、産婦人科医の柴田綾子先生にワクチンで子宮頸がんを予防する方法をうかがいます。 <写真>【9月末までに1回目を】無料接種がもうすぐ終了!「HPVワクチン」の予防効果と副作用を医師が解説 ■HPVワクチンってどんなもの? 子宮頸がんを予防するHPVワクチンとは、どのようなワクチンなのでしょうか? 「HPVには、200種類以上のタイプがあるのですが、全部が悪さをするわけではなくて、そのうち子宮頸がんの原因になるウイルスは、約15種類あることがわかっています。また、その中でも16型と18型のHPVが子宮頸がんの原因の50~70%を占めています。この“悪さをするHPV”の感染を予防するのがHPVワクチンです。HPVワクチンを接種して抗体ができると、その後、性行為をしても細胞にHPVがくっつかず、感染しません。抗体が長い間定着し続けるので、子宮頸がんになるリスクをかなり減らすことができるのです」と柴田綾子先生。 ■ワクチンの副反応は大丈夫? ワクチンの副反応などのリスクを心配している人もいると思いますが、新型コロナのワクチン接種で起こる副反応の発熱より、HPVワクチンによる発熱は少ないと言われています。 「HPVワクチンは、新型コロナのワクチンと同様、筋肉注射を腕にします。50%以上の人が、一時的に腕が腫れたり、硬くなったりします。また、10%未満の人に発熱、10~50%未満の人に頭痛、関節痛などが一時的に出ることもあります。でもこれらは、体に抗体ができるときの反応なので、数日でよくなります」(柴田先生) HPVワクチンに関しては、2013年にテレビや新聞で、体に力が入らない、歩けない、広範囲に広がる痛みや手足の動かしにくさなどの副作用が報道されました。その印象が今も残っている人がいると思います。 「その後の調査で、これらの症状は、HPVワクチンを打った人と打ってない人に同じ割合で起こっていることがわかりました。これらの症状は思春期に起こりやすく、ストレス反応が影響している可能性が考えられています」(柴田先生) ちなみに、このような重篤な症状が出た人は、ワクチンを接種した1万人あたり5人でした。 「もちろん、ワクチン接種による副反応のリスクはゼロではないですから、心配な人は、かかりつけ医や自治体に相談してみるのもいいと思います。 海外の国々では、60~90%の女子や男子が、国のワクチンプログラムに沿ってHPVワクチンを接種しています。でも日本はまだ接種率が2.8~31.6%程度(年代によって異なる)*1。子宮頸がんにかかる人、子宮頸がんで亡くなる人をこれ以上増やさないためにも、ぜひワクチン接種を検討して欲しいと思います。子宮頸がんは、ワクチンで予防ができるがんなのです」(柴田先生)。 *1 厚生労働省 2024年1月26日 第100回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料3-2 (最終閲覧2024/08/01) ■HPVワクチンを接種するには? 厚労省は2022年4月から、全国の自治体に対して、HPVワクチンの無料接種を対象者に個別案内することを発表しました。定期接種(無料接種)の対象となる人(小学校6年生から高校1年生の女性)には、自治体から予診票などが送付されています。 「この年齢を超えてしまった人でも、接種するチャンスがあります。2022年4月から2025年3月までの3年間で、誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性は、HPVワクチンの無料接種を受けられるようになる措置(キャッチアップ接種)が厚労省から発表になっています。この年代で、過去にHPVワクチンの接種を受けていない、あるいは、1回または2回接種したことがある方は、2、3回目がまだであれば追加接種を受けられます。1回も接種していない人は、1回目を9月末までに打たないと、2023年3月までに3回目までを打ち終わりません。 ■45歳まではHPVワクチンを接種するメリットがある 無料接種の対象外の年齢の人で、自己負担で、接種を希望する人はどのような方法がありますか? 「1997年4月1日以前に生また女性は、無料接種の時期を過ぎてしまっていますが、HPVワクチンを接種するメリットはあり、子宮頸がんを予防するためにHPVワクチンは有効です。45歳までは接種の効果が報告されていますので、新しいパートナーができる方は、ぜひ前向きに考えてみていいでしょう。私もHPVワクチンを接種しています。仮に45歳を過ぎてもHPVワクチン接種は可能です。また現在、男性にも4価のHPVワクチンが薬事承認されています。男性も肛門がん、咽頭がんの予防になります。費用は自己負担ですが、東京都内など自治体によっては費用の一部を助成しています。ぜひ接種を検討してみてください」(柴田先生) 費用は、男女ともに自己負担の場合、クリニックによって多少のばらつきはありますが、HPV2価ワクチン、4価ワクチンは1回15,000~17,000円×3回。9価ワクチンは1回33,000~36,000円×3回という費用が必要です。自己負担で接種を希望する人は、産婦人科や内科、小児科、ワクチン外来、感染症外来などで接種することができます。クリニックのホームページや電話でHPVワクチン接種を行なっていることを確認して、予約を入れます。クリニックによってはワクチンを取り寄せる必要がありますので、必ず予約をしてください。ワクチンの種類をどれにするか迷っている人は、それについても相談できます。 「私が理事を務めるNPO法人女性医療ネットワークで、HPVワクチンの相談や実際に接種のできる全国の医療機関リストを作りました。ぜひ参考にしてみてください」(柴田先生) 【NPO法人女性医療ネットワークのHPVワクチンと検診の相談医療機関リスト】 子宮頸がん検診やHPVワクチンに関する相談可能な医療機関リスト - NPO法人女性医療ネットワーク ■HPVワクチンは3種類。どれを選べばいい? 今、日本で使われているHPVワクチンは3種類で、それぞれの特徴があります。 「日本で使われているHPVワクチンは、2価(子宮頸がんの原因となる16型、18型の2種類のHPVを予防する「サーバリックス®」)、4価(16型、18型に、尖圭コンジローマを予防する6型、11型もあわせた計4種類のHPVを予防する「ガーダシル®」)、2021年に承認された9価(6型、11型、16型、18型に加えて、子宮頸がんの原因31型、33型、45型、52型、58型の9種類のHPVを予防する「シルガード®9」)の3種類です。現在、いずれも無料定期接種の対象になっています。2価や4価のHPVワクチンは、子宮頸がんになりやすい16、18型HPVの感染を予防し、子宮頸がんの約70%を防ぎます。9価のHPVワクチンでは、約90%の子宮頸がんを防ぐことができると言われています」(柴田先生) 【HPVワクチンの種類と接種間隔】 ■■「9価HPVワクチン(シルガード®9)」 90%の子宮頸がん(16、18、31、33、45、52、58型)、尖圭コンジローマ(6型、11型)などのヒトパピローマウイルス感染症の予防。 ・初回接種が15歳未満の場合 2回接種:初回から5か月以上(標準的には6か月)あけて2回目。 ・初回接種が15歳以上の場合 3回接種:初回から1か月以上(標準的には2か月)あけて2回目。2回目から3か月以上(標準的には4か月)あけて3回目 ■■「4価HPVワクチン(ガーダシル)」 70%の子宮頸がん・肛門がん(16、18型) 、尖圭コンジローマ(6、11型) などのヒトパピローマウイルス感染症の予防。 ・初回から1か月以上(標準的には2か月)あけて2回目、2回目から3か月以上(標準的には4か月)あけて3回目。 ■■「2価HPVワクチン(サーバリックス)」 70%の子宮頸がん(16、18型)などのヒトパピローマウイルス感染症の予防。 ・初回から1か月以上(標準的には1か月)あけて2回目、2回目から2.5か月以上(標準的には5か月)かつ1回目から5か月以上あけて3回目。 ■HPVワクチンを接種したほうがいい人は、どんな人? 「“ワクチンは、セックスを経験してしまったら接種しても意味がない”と思っている人もいると思います。性交渉を経験してからでも、接種するメリットはあります。いくつかの研究を総合して分析した論文で、26歳までは、性交渉のアリ、ナシにかかわらず、HPVワクチンを接種する効果が高く、メリットがデメリットを上回るという研究結果があります。さらに、45歳までの女性なら、ワクチンを接種することで子宮頸がんや前がん病変の異形成を予防する効果があることも報告されています。もちろん、45歳以降でもHPVワクチンを接種することは可能です。ただし、ワクチンは治療薬ではないので、すでに感染してしまっているHPVを消すことや、治すことはできません。 けれども、ひとりの人が同時にいくつものタイプのHPVに感染していることは少ないので、ワクチン接種によって、今感染していないHPVのタイプに将来感染することを防ぐことができるのです。子宮頸がん予防を考える方は検討してみていいと思います。また、子宮頸がん予防はワクチンだけではありません。ワクチンに加えて、子宮頸がん検診を20歳から2年ごとに定期的に受けることも重要ですので、検診も忘れずに受けてください」(柴田先生) ■■お話を伺ったのは…柴田 綾子(しばた あやこ)先生 淀川キリスト教病院 産婦人科医 日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。 取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
増田美加