ジェイミーXXが語る、ダンスミュージックの新たな金字塔を生み出した「熱狂」と「内省」
『In Waves』を成功に導いたコラボワーク、The xxの今後
―前作『In Colour』は、ヤング・サグとポップカーンが参加していたことを除くと、ゲストはThe xxのロミーとオリヴァーだけでした。しかし『In Waves』には幅広いシンガーがフィーチャーされていて、ハニー・ディジョンやザ・アヴァランチーズのようなトラックメイカーも参加しています。ある意味、前作よりも開かれた印象を受けますが、こうした変化の理由を教えてください。 ジェイミー:僕はこのアルバムの制作を始める前、作曲が出来なくて悩んでいたんだけど、そうなってしまった理由のひとつは、自分が孤立していて、視野が狭くなっていたということだった。制作に関しても、全部自分でやりたいと思っていたんだよね。しかも、自分はそうやって制作するのが得意だと思っていたし。でも、自分を開放して、他のアーティストや、特に他のプロデューサーと一緒に仕事をすることは、自分にとってすごく有益なことだった。僕は今まで、他の人と一緒に仕事をすることに苦手意識があったんだ。音楽制作をしているときは、自分が安心できるセーフスペースというものがあって、そこにいるのが心地よかったから。でも今回、他の人たちと一緒に仕事をすることで、自分を限界までプッシュすることができた。それに、自分が尊敬するアーティストやプロデューサーたちに、このアルバム音源をリリース前に聴いてもらうことで、アルバムを完成させることができたんだと思う。 ―プロデューサーとのコラボと言えば、ザ・アヴァランチーズは彼らのアルバムでも共演経験がありますが、ハニー・ディジョンは少し意外な人選だと思いました。 ジェイミー:バスク地方のビルバオでパーティをやった時に、ハニー・ディジョンに参加してもらったんだ。かなり前の話だけど、彼女はすごく最高だったよ。その時に知り合いになって、ずっと連絡を取り合っていて。で、パンデミック中に彼女から一緒に曲を作らないかという連絡があったんだ。当初は彼女のアルバムのための音楽を作る予定だったんだけど、僕は閉ざされていた状況から一気にモチベーションが上がったから、(自分のアルバムの曲を)すぐに完成させることができて。曲の基本的な部分は1日くらいで完成させたね。その後は彼女と連絡を取り合いながら、曲を仕上げていったんだ。彼女から一緒に作曲をしないかという話が持ち上がらなかったら、僕はもっと長い期間、停滞していたと思うから、彼女には感謝しているよ。 ―今作のゲストはどのように決めたのでしょうか? やろうと思えば、あなたがこれまでプロデュースしてきたポップスターをフィーチャーした豪華絢爛なポップアルバムを作ることも出来たと思いますが、そうはしなかったですよね? ジェイミー:確かに僕はポップスターと仕事をしてきたことがある。ただそれは、自分の安全領域を超えて音楽を作ってみようと思ったからで。自分のための音楽というよりは、相手(ポップスター)のためだったんだよね。だけど、今回のアルバムに収録した曲は、すべて自分にとって意味のあるつながりを持った人たちとのコラボレーションなんだ。彼らとの曲が出来る以前から、その相手とは基本的に知り合いだったし、音楽だけではなく、友人として仲良く一緒に過ごしたことのある人たちで。そういうコラボレーションをするのが、僕にとって自然なことなんだ。ちゃんとしたつながりを感じられる人たちとコラボレーションすることが、自分にとって有意義なことなんだと思う。 ―今回サンプリングされたボーカルは、サウンド的に曲にフィットするだけではなく、歌っている内容、言葉の意味も意識して選んでいるように感じられたのですが、そのような意図はありましたか? ジェイミー:そうだね、言葉の意味も考えて使うようにした。ゆるくメッセージを伝えたいと思っていたから。 ―言葉の意味の話で言うと、「Breather」から「Falling Together」までの流れは、落ち込んだ状態から立ち直り、最終的には再びダンスフロアの熱狂に身を投じていく過程を表現しているように感じられました。 ジェイミー:「Breather」からの流れに関しては、すごく気に入っているんだ。しっくりくる流れを見つけるのがすごく大変だったからね。今回は、トラックリストの制作に今まで最も時間がかかったアルバムだった。このアルバムは長い期間を経て作られたものだから、ひとつのアルバムとして聴くことが難しく感じられて。でも、ちゃんとアルバムとして聴ける作品にすることが、僕にとって大切なことだった。だって、アルバムっていうアートは、聴いている人をその瞬間に没頭させるものだと思うから。実際、収録曲の多くは、アルバムとしてフィットするように調整を加えたんだ。制作の後期の方では、アルバム向けの曲も作ったりしてね。 ―「Breather」ではヨガ講師のジュリアナ・スパイコラックのスポークンワードが使われています。なぜ彼女に参加してもらうことにしたのでしょうか? ジェイミー:ロックダウン中にYouTubeでヨガの動画を見て、上の階に住んでいる友達と一緒にレッスンを受けていたんだ。毎日やっていて、バカみたいだったけれど、健康的でいることが気持ち良かった。で、ヨガの先生の話を聴いているうちに、健康的なライフスタイルを歩んで毎日の瞬間を大切に生きることは、いろいろな物質を摂取してダンスフロアで体験することに通じるものがあると思ったんだよね。 ―確かに「Breather」で語られているのはヨガのレッスンで講師が言うような内容ですが、この曲で聴くと、クラブでのスピリチュアルな体験について話しているようにも聴こえますよね。ロックダウンの経験とクラブでの体験が同時に表現されているようです。 ジェイミー:その対照的な組み合わせも面白いと感じたし、そのどちらも、人々にとって違った意味で良い影響があるということが面白いと思ったんだ。 ―その次の曲、「All You Children」でサンプリングされているニッキ・ジョヴァンニの「Dance Poem」の一節は、この流れで聴くと一際感動的です(「涙を拭いて、音楽が聴こえないの? このハッピーなビートが聴こえないの? 子供たちよ、みんなで集まって、一緒に踊ろう」)。この曲は、あなた個人の回復の過程、そしてパンデミックで止まっていた世界が再び動き出す過程を表現しているように感じられましたが、あなたはどういった意図でサンプリングしたのでしょうか? ジェイミー:今の表現の通りだと思うよ。そういうことを伝えたかったんだ。あの詩が載っているレコードは10年くらい前から持っていたんだ。ツアーでワシントンDCにいる時にレコード屋で見つけたんだよ。いつかサンプリングで使いたいとずっと思っていたんだけど、パンデミックを経験するまでは、これを使う真の意味を見出せなかった。こういう使い方ができて、こういう仕上がりになったことについてはすごく満足しているんだ。 ―よくわかりました。ではもう時間が来てしまったので、最後に制作中のThe xxの新作について訊かせてください。現時点で話せる範囲で構いませんので、どのような作品になりそうか教えてもらえますか? ジェイミー:どんな作品になるかは僕も分からないから、本当に何も教えてあげられないんだ。この3カ月間、僕たちは一緒に音楽を作ったけど、それが良いものなのか、そうでないのか、僕には全く分からない。でも3人で制作をするという過程は楽しんでいるよ。今、言えるのはこれくらいかな。 --- Jamie xx 『In Waves』 2024年9月18日 CD/LP日本先行リリース 2024年9月20日 デジタル/ストリーミング配信 国内盤CD:ボーナストラック追加収録 初回生産限定Tシャツ付きも発売
Yoshiharu Kobayashi