ジェイミーXXが語る、ダンスミュージックの新たな金字塔を生み出した「熱狂」と「内省」
ポップとアンダーグラウンドの狭間で
―先日ロビンと一緒に出演したスウェーデンのラジオ番組で、「クラブミュージックがポップになった」という発言していましたよね。それは具体的にどういった現象のことを指しているのでしょうか? ジェイミー:最近のポップミュージックは、残念なことに、僕の前作に影響を受けているものが多いと思う。僕の音楽からインスピレーションを得ているなというポップミュージックを聴くと、理解に苦しむんだ。僕はダンスミュージックが大好きだし、自分にとっては特に愛着のある音楽だから、ダンスミュージックはすごくパーソナルな領域のものだった。でも、最近耳にするポピュラーなダンスミュージックには、あまり心がこもっていないものが多いと感じる。ダンスミュージックの人気にあやかって作られている音楽のように聴こえるんだ。その一方で、ダンスミュージックは万人のためにある音楽だと思いたいし、新しい世代のキッズたちがハマっているのを見るのは嬉しい。まあ、色々な人が、さまざまな理由や目的でダンスミュージックに傾倒しているんだと思う。 ―そういった状況の中で、自分がどういった音楽を作りたいのか、改めて考えたりしましたか? ジェイミー:違う種類の音楽を作ろうともしたけれど、結局はダンスミュージックに戻ってくる自分がいたね。やっぱり自分が本当に好きな音楽だからだと思う。それに僕はDJをするのも大好きだし、DJをするには最新のダンスミュージックに触れている必要がある。最近でも、アンダーグラウンドには素晴らしいダンスミュージックがたくさんある。ただ、それにたどり着くまでに、たくさんのゴミみたいなダンスミュージックをかき分けて行かなくちゃいけないっていう。でもこういう状況になったことがきっかけで、「Treat Each Other Right」のような曲ができたんだと思うし。 ―というと? ジェイミー:この曲は、テンポが急激に切り替わるんだけど、こういう技術は少し難しいから、真似できない人も多いと思う。それに、この曲をダンスフロアでかけるとクラウドも一瞬混乱するから面白いんだ。これほどまでにたくさんのダンスミュージックがポピュラー音楽の領域で普及している今だからこそ、僕にしかできないことができるし、そういうことをやろうというモチベーションにもなったんだ。 ―The xxが『I See You』をリリースしたときにもインタビューさせてもらったのですが、当時あなたは「アンダーグラウンドの音楽はちょっと退屈になってきている。これだけアンダーグラウンドの音楽よりポップミュージックの方が面白いのは、初めてのことなんじゃないか」と話していました。これは当時の状況を的確に捉えた意見だったと思いますが、あれから7年が経ち、音楽シーンはどのように変わったと感じていますか? ジェイミー:大きく逆転したと思う。でも、それは良いことだよ。世界はそうやって動いているものだからね。ポップミュージックで面白いものが出てくると、もっと面白いものを作ろうとする人が出てきて、その影響がアンダーグラウンドにも及ぶ。そしてアンダーグラウンドで面白い音楽が出てくると、それをより商業的にしようとする人たちが出てくる。現在がまさにその状況だよ。僕はアンダーグラウンドの世界にも関与しているし、巨大なライブをやる機会も与えてもらっているから、すごく恵まれている。この2つの世界の橋渡し的存在でいられることを幸運に思うんだ。僕はポップミュージックも大好きだし、アンダーグラウンドなダンスミュージックも大好きだから。この2つの世界の狭間に存在できる人はそんなにいないから、自分はとても恵まれていると思うね。 ―『In Waves』の収録曲の多くは、あなたがここ数年DJで使ってきた曲でもあります。現場でのオーディエンスの反応というのは、曲をブラッシュアップさせていく段階で影響を与えているのでしょうか? ジェイミー:もちろんだよ。僕はこのアルバム以前に、オーディエンスをここまで意識的に見るということはしていなかったし、反応に合わせて曲を変えていくということもしたことがなかった。でもこれはすごく楽しい方法だったよ。この方法が上手くいく時もあったし、上手くいかない時もあった。曲をかけて、オーディエンスの反応を見れば、その曲が上手くブラッシュアップされているのか、そうでないのかが分かった。だからこのアルバムは、オーディエンスの影響が大きいと言えるね。その点はすごく気に入っているんだ。 ―具体的に、オーディエンスからの反応がもっともダイレクトに反映された曲を挙げるとすれば? ジェイミー:難しいけど、「Treat Each Other Right」なんかはそうだと思う。とても変わっている曲だからね。テンポの切り替えがあるから、構成が正確でないと、元のテンポに戻した時にオーディエンスが理解してくれないんだ。オーディエンスを混乱の渦から、納得へと導くには正確な構成が求められた。オーディエンスを納得へと導くためには、何ヴァージョンも試す必要があったよ。 ―現場でのオーディエンスからの反応以外で、本作に影響を与えたものはありますか? 何かしらの曲やアーティストから音楽的にインスパイアされたりとか。 ジェイミー:アルバム制作の特に後期は、ブレイクビーツや、最近のヨーロッパやUKの若いプロデューサーが作っている、テンポがすごく早い2ステップにインスパイアされていた。後者に関しては、僕でさえどうやって作っているのか分からないくらいのクレイジーなサウンドデザインで、とても面白いプロダクションなんだ。僕は他の人から刺激を受けたいと思っているし、若い世代から背中を押されて刺激を受けるのはその最適な形だと思う。新しいことをやっている人や、他の人と違うことをやっている人を知りたいと思うし。しかも、そういう人たちは、まだ酒も飲めないくらいの未成年であることが多いんだ(笑)。 ―具体的に刺激を受けたアーティストの名前を挙げることは出来ます? ジェイミー:難しいな……メトリスト(Metrist)というプロデューサーがいるんだけど、彼が作る音楽はクレイジーなサウンドだよ。僕は数カ月前からロンドンでクラブイベントを始めたんだけど、そのイベントに彼を誘ってDJをしてもらったんだ。その時に彼がどうやって音楽を作っているのかという話を色々と聞いたよ。すごく感心したね。