ジェイミーXXが語る、ダンスミュージックの新たな金字塔を生み出した「熱狂」と「内省」
言わずと知れたThe xxのトラックメイカー、ジェイミーxx(Jamie xx)の実に9年ぶりとなるソロアルバム『In Waves』は、これまで以上にエッジーで、なおかつダンスフロアの熱気と興奮が充満しているような作品だ。と同時に、ジェイミー個人の物語にフォーカスした私小説的な作品でもある。熱狂的だが内省的。コミューナルだがパーソナル。前作『In Colour』は2010年代におけるインディダンスの金字塔となったが、一層奥行きが増した今作もそれに勝るとも劣らない傑作だと言っていいだろう。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 詳しくは以下の対話に譲るが、本作の野心的なサウンドは、新世代が「クレイジーなサウンドデザイン」の曲を次々と生み出しているクラブカルチャーの“今”にインスパイアされている。そしてそんな刺激的なアンダーグラウンドのシーンとは対照的に、退屈なダンスミュージックが量産されているメインストリームに対するリアクションでもある、とジェイミーは話している。つまり、The xxの『I See You』が2010年代半ばの「売れているポップこそが一番冒険的で面白い」という状況に対するインディからの応答だったとすれば、『In Waves』はメインストリームの冒険性に陰りが見え、再びアンダーグラウンドが活性化している2020年代半ばの状況を映し出した作品だということだ。 ただジェイミーが詳しく語っているように、本作は決して簡単に生まれた作品ではなかった。一時は曲も書けないほどのスランプに陥っていたというのだから、ソロ前作のリリースからしばらくの間、相当大変な時期を過ごしていたのだろう。しかしパンデミックで世の中のすべてが止まり、じっくりと自分を見つめ直す時間を持てたことで、徐々に彼は回復していった。このアルバムは、そんなふうにジェイミー個人が回復していく過程と、パンデミックから世界/クラブシーンが回復していく過程が重ねて表現されている作品でもある。だからこそ本作は、汗ばむようなダンスフロアの熱気が感じられると同時に内省的でもあるのだ。 本作リリースのアナウンス時にジェイミーはコメントを発表しているが、そこで彼は自分や世界が経験してきた困難を「wave、波」という言葉で表現していた。それを踏まえると、アルバムタイトルの意味合いも想像がつく。つまり『In Waves』とは、あなたや私、クラブシーン、そして世界を襲った様々な困難を乗り越え、深夜のダンスフロアでまた会おうというジェイミーからのメッセージなのだろう。