ふるさと納税先払いや借り上げ社宅 福利厚生強化で「実質賃上げ」
物価高を背景に、賃上げに取り組む企業が増えている。食品やエネルギーなど、生活必需品の価格上昇で家計が圧迫される中、処遇改善を求めてより条件の良い企業に転職する人も少なくない。人材流出を阻止すべく、従業員の賃上げは急務だが、中小・中堅企業の中には賃上げに踏み切れない企業もある。 【関連画像】エデンレッドジャパンのチケットレストラン用のICカード(写真:エデンレッドジャパン提供) 東京商工リサーチが2024年2月に発表した調査では、24年度に賃上げを予定する企業は85.6%に上るも、規模別の実施率で見てみると大企業が93.1%であるのに対し、中小企業が84.9%にとどまる。中小企業は依然として、賃上げ余力がないのが現状だ。物価高や人手不足による人件費高騰は中小企業の業績を圧迫しており、23年は人件費の高騰による企業倒産が過去最多の59件発生した。 業種別で見ると、医療従事者の賃上げも厳しい状況だ。治療費や医療従事者の人件費は診療報酬で賄われているため、大幅な賃上げは健康保険料の増額につながりかねない。同様の問題は、介護報酬が定められている介護事業者にも当てはまる。 賃上げという手段を使わずに人材定着を促そうと、賃金とは違う形で報いようとする動きも出始めた。 老人ホームや介護事業を運営するハートコーポレーション(大阪府豊中市)は、23年2月に福利厚生大手エデンレッドジャパン(東京・千代田)が提供する「チケットレストラン」と呼ばれるサービスを導入した。従業員はサービス加盟店で食事する際に支給されたカードを使って支払う。カードへのチャージ金額は従業員と企業が折半して負担する。 導入した理由ついて、ハートコーポレーションの岡嵜将志常務は「賃上げと比較して企業への負担が少ない上、同業他社との差異化になると思った」と話す。給料での差異化が難しい中で、福利厚生は重要な役割を果たす。食事代なら全員が活用できることも決め手になった。利用者は従業員の5割ほど。普段は買わないプチぜいたく品を楽しむなど、ストレス発散にもなることが社員の満足度向上につながっているという。 エデンレッドジャパンのチケットレストランの加盟店は全国に25万店以上、利用者は15万人いる。中小企業を中心に導入企業は増えており、21年と比較して、23年は新規契約企業数が4倍近くになった。従業員の定着や満足度向上のために導入するところが多いが、ハートコーポレーションのように“実質賃上げ”を目的とした利用も増え始めている。 同社は福利厚生を通じた賃上げを「第3の賃上げ」と定義する。勤続年数などに応じて実施される「定期昇給」と「ベア」を第1、第2の賃上げと位置づけ、福利厚生サービスによる補助を「第3の賃上げ」としている。エデンレッドジャパンの天野総太郎社長は「企業の経営課題に対して、福利厚生がどう貢献できるかを可視化する必要がある」と話す。