「娘なのになぜできないの?」50代前半では8人に1人が当事者「ビジネスケアラー」の過酷すぎる選択
78歳の母親に癌が発覚。心身が衰えていく姿を見て、介護保険サービスの利用を母親に提案するが…
働きながら親の介護をする「ビジネスケアラー」が増えている。「親はまだ元気だから大丈夫」と思っていたら、ある日突然、仕事か介護かの選択を迫られることも。 【画像】安室奈美似さんが急死した母の「最期の瞬間」をSNSにあげる理由 “仕事との両立可能な介護”の実現に向けて、ビジネスケアラーがやるべきこととは――。 両立できずに離職を決めた西崎愛奈さん(仮名・49歳)の体験を一つの事例に、前編、後編の2回にわたって企業の介護支援コンサルティングを行うNPO法人「となりのかいご」代表の川内潤さんと考えてみた。 ◆本当に必要なことはやってもらえない……介護サービスに対する母親の不満が爆発 「私は何十年も専業主婦をやってきたの。今でもあなた方より料理は上手だし、掃除は以前から家政婦さんにお願いしています。あなた方にやってもらえることなんてあるのかしら」 要介護1の認定を受け、介護プランを話し合う“ケアプラン会議”の席で、西崎愛奈さん(仮名・49歳)の母親(当時79歳)は、ケアマネージャー、ヘルパー、訪問看護師に向かってこう言い放った。 長い間一人暮らしを続けきた母親は、料理はプロ並みという自負があり、80歳近くになっても一切手抜きなし。毎日のストレッチは欠かさず、友人づきあいもマメ。体力の衰えを自覚すると掃除のサポートに家政婦を雇い、「いずれサ高住に入るわ」と、近所の施設に見学に行くなど終活にも積極的だった。そんな母親を見て、近所に住む西崎さんも、遠方に住む姉も、将来、母親の介護で困ることはないだろうと安心していたという。 ところが78歳で癌が発覚。心身が衰えていく母親を見て、西崎さんは今後のためにと、介護保険サービスの利用を提案。母親も「せっかく介護保険料を払ってきたのだから」と利用に前向きだった。ところが、要支援1の認定を受け、週1回30分の掃除中心の家事援助に来てもらううちに、不満が爆発した。 「あの程度の掃除なら、家政婦さんで十分。時間が短くてろくな話もできないし、毎週、違うヘルパーだから信頼関係も築けない。人が出入りして疲れるだけだわ」 西崎さんはまだ一人で家事ができる母親を見て、ひとまずサービスの利用を見合わせた。 その後、病気が進行し、週2回の訪問看護を受けることに。看護師からの勧めや、近い将来一人での生活が難しくなるのではとの不安から、再び介護申請を行ったのだという。 そんな娘の心配をよそに、ケアプラン会議の席で母親が口にしたのが、冒頭の発言だったと西崎さんは苦笑する。