「娘なのになぜできないの?」50代前半では8人に1人が当事者「ビジネスケアラー」の過酷すぎる選択
子どもには親のプライドより安全安心が大事。だから生じる大きなズレ
NPO法人「となりのかいご」代表の川内潤さんによると、西崎さんの母親のように、「ヘルパーやデイサービスを拒否する」要介護者は非常に多いという。 「長く自立して生きてきたところに、いきなり他人が深く関わってくるわけですから、要介護者が不安になるのは当然です。そうした不安な気持ちを理解してほしいと言っているのであって、本当にヘルパーを拒否しているかどうかはわからない。もっと言えば、本人も自分の気持ちがわかっていないかもしれません。 料理はヘルパーより自分のほうがうまい、だからまだやれるとおっしゃるのであれば、そのプライドは大事にすべきでしょう。とはいえ家族は要介護者の安心安全を先に考えてしまう。そこに大きなズレが生じてしまうのです」 西崎さんも、母親の病気が進むにつれ、いくら料理がうまくても、火の始末ややけどなどケガをしないかと心配した。だが、料理にプライドも自負もある母親にはそんな娘の気持ちは「いらぬ心配」でしかなかったのだろう。 「こうした親との価値観のズレはやり過ごすしかないのですが、なかなか難しい。そのためには、“親との距離を取る”ことが戦略になります。西崎さんのケースなら、会議中のやりとりを聞かずにすむよう席を外し、あとはプロに任せるという判断をすれば良かったかな、と。そうすれば、介護サービスの利用を諦めなかったのではと思います。 また、西崎さんは母親がケアプラン会議で介護職の人たちを困らせるような発言をされたことを気にされていましたが、発言自体、悪いことでも何でもないですし、ヘルパーは困ってはいなかったと思います。いや、多少は困っていたかもしれませんが(笑)、いきなりナイフを取り出して『刺すぞ、出ていけ』というケースもあるわけですから。むしろこのケースは、介護職のスキルアップに非常に重要な発言だったと思います」 子どもにとって親が発する言葉のインパクトは確かに大きく、影響を受けやすいものかもしれない。だが、仕事と介護の両立を図るには、親から言われたことに対して、子どもの側が思考停止せず、自律的な判断をすることが大切なのだと川内さんは説く。 さらに、こう語気を強める。 「日本人には『介護=親のそばにいる=親孝行』とする人が実に多いのですが、私はこのマインドをリセットすることが、ビジネスケアラー問題の最大の課題だと思っています」 年を取り、衰えた親を見て、“そばで支えてあげたい”と思う人は大多数いるはずだが、そう思うのは間違いなのか。 後編では、「介護=親孝行」と思うことが間違いである理由と、仕事との両立を可能にする介護について、もう少し掘り下げてみたい。 川内 潤 NPO法人「となりのかいご」代表理事。1980年生まれ。 上智大学文学部社会福祉学科卒業。 老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、’08年に市民団体「となりのかいご」設立、 ’14年にNPO法人化。 取材・文:辻啓子
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