『宙わたる教室』あまりにも切ない“空中分解” 窪田正孝が“研究者”から“先生”の眼差しに
窪田正孝の表情が“研究者”から“先生”に変化する
現代は“親ガチャ”という言葉がライトに使われるほど、生まれ持った環境や才能によって人生が決まると思っている人が多い。あるいは、そう思わせられる流れが作られてしまっているとも言えるだろう。岳人自身は周りの人間を上か下かで判断はしていない。だけど、孔太のように、勝手に自分を下に見られたと思って足を引っ張る人もいれば、数少ない椅子に這い上がってくる人間を上から押さえつけようとする人もいる。でも、そうやって争うことに一体何の意味があるというのだろうか。 JAXAの見学に訪れた小学生を案内する相澤(中村蒼)に「こんなところで油を売っている場合ですか」と吐き捨てた石神(高島礼子)も、自身の進退を懸けて“しののめプロジェクト”を成功させようとするあまり、大事なものを見失っているように思える。おそらく藤竹は、そうやってエリートと呼ばれる一部の人間の特権になってしまっている科学の門戸を広げるために、定時制に科学部を作ったのだろう。科学を発展させる才能やアイデアは意外なところに眠っているという仮説をもとに。現に、科学部の部員たちは予算も設備も限られている中で、大学の研究にも引けを取らない実験装置を作り出した。 だけど、被験者たる部員にまさか自分が肩入れすることになるとは藤竹も思ってもみなかったのではないだろうか。本気で頑張ってきたことを諦めようとする岳人に「柳田くん、やめるつもりですか? 実験」とすがるような目で問いかける藤竹。以前も岳人は学校を辞めようとしていたことがあるが、あの時の藤竹は引き止めようとはしていたものの、まだ冷静な研究者の顔をしていた。でも、今の藤竹は明らかに先生の顔をしている。自分でも知らないうちに、部員たちのことを被験者ではなく生徒として見守るようになっていたのだろう。 こんなことになって初めて気づくなんて悲しすぎる。だけど、「天体の衝突は、時にさまざまな生物の絶滅の原因となる。しかし同時に、新しい別の何かの始まりでもある」という藤竹自身の言葉をいま一度思い出したい。6600万年前に地球に衝突した小惑星は恐竜を絶滅させたが、同時に人類誕生のきっかけになったとも言える。それと同じように、科学部に落ちた隕石も新たな何かの始まりとなりますように。
苫とり子