首相独断「聞く力」どこへ 欲に駆られて再選危うし 書く書く鹿じか
岸田文雄首相はアジサイ(紫陽花)のようだ。こう書くと、ほめ言葉に思われそうだが、そうではない。 【画像】次期衆院選での「政党議席予測」(5月27日時点) アジサイは一雨ごとに花の色が変わるところから「七変化」の別名がある。花言葉は「移り気」が知られる。正岡子規は、人の心の移ろいやすさをなぞらえて、「紫陽花や きのふの誠 けふの嘘」と詠んだ。 岸田首相がアジサイ的なのは変わり身の早さである。政治資金規正法の改正で「実効性のある再発防止策」と胸を張った自民党案が「穴だらけ」と総スカンを食うと、公明党、日本維新の会とトップ会談を行い、両党の主張を取り入れた。法案修正で二転三転し、自民党内に抵抗もあったが、今国会での成立が最優先と押し切った。 「政治とカネ」問題のきっかけとなった派閥パーティー収入不記載事件では、関係した議員が渋るのに、現役の首相として初めて衆院政治倫理審査会に出席した。問題の根が派閥にあるとされると、自らが会長を務めた岸田派(宏池会)の解散を表明した。まさに「突発性決断症」(政治アナリスト、伊藤惇夫氏)である。 就任当初はこれほど独断専行ではなかった。「聞く力」が売りで、何でも「検討します」と答えるので「検討使」のあだ名がついた。それが「聞く力と、決断し実行するバランスが求められる」に変わり、いつしか「聞く力」と言わなくなった。 このところ内閣支持率は危険水域とされる20%台に低迷しており、衆院3補選や静岡知事選などで、自民党は不戦敗を含め連敗である。岸田首相としては、率先してリーダーシップを発揮している姿を見せたいのだろう。 ヤクルト、阪神、楽天の監督を務め、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」の名言を広めた野村克也さんは、「野村の眼 弱者の戦い」(KKベストセラーズ)でこう書いている。 <私は、「自己コントロールとは、欲から入っていかに欲から離れるか」が最重要だと信じる。絶好球が来たと思って、ほんの0・何秒かあせってバットを振り、チャンスをふいにする。最後はストレートで格好よく三振を取りたいと欲を出して痛打を浴びる。欲から入って欲を離れることができず、失敗した例をこれまでにも数多く見てきた。> 岸田首相の「欲」は、9月の自民党総裁選で再選されることであろう。そのためには支持率を回復しなければならない。一人当たり4万円の定額減税は、起死回生の一打になるはずだった。ところが、給与明細への記載の義務化に、経理事務の負担が増えると批判が噴出した。減税の恩恵を実感させようという欲を離れることができず、チャンスをふいにしたのだ。
アジサイは咲き終わると、剪定(せんてい)して花の部分を落とす。岸田政権はいつまでもつだろう。(元特別記者 鹿間孝一)