憲法学者 木村草太さんに聞くイマドキな結婚スタイルや「同性婚」「夫婦別姓」
従来の婚姻スタイルにとらわれず、ライフスタイルに合った結婚生活を選択するケースが増えている。そんなイマドキな結婚スタイルが成り立つ法律的な背景や昨今議論になっている「同性婚」「夫婦別姓」について、憲法学者の木村草太さんに伺いました。 【画像】社会学者が解説!結婚・出産・育児にまつわるニュースワード
憲法学者 木村草太さんに聞く「結婚と法律」のイマ
■【インタビュー】イマドキな結婚スタイルが成り立つ法律的な背景は? 「実は、柔軟な日本の婚姻制度が多様な家族に対応するためのカギ」 近年、事実婚、別居婚、友情婚など、従来の枠にとらわれない多様な家族の形が顕在化しています。実は、日本の法律はそれらに対応する柔軟性を持っており、非常に先進的だと言えます。 たとえば、欧米圏をはじめとした諸外国は、婚姻・離婚の手続きが厳格ですが、日本では合意して役所に書類を出すだけで即時成立します。また、民法には夫婦の同居義務の規定がありますが、これは抽象的な義務で、夫婦間の話し合いで同居/別居を自由に選択できます。夫婦の性交渉の義務もないので、友情婚も自由です。 日本の婚姻制度にはこのような一定の柔軟性があるのですが、「選択的夫婦別姓」と「同性婚」については、依然として認められていません。これらを実現させるためには民法の改正が必要で、各問題の背景を注意深く見なくてはなりません。 まずは「夫婦別姓」。強制的な同氏を維持したい側の主張としてよく挙げられるのが、「家族の一体感」です。しかしこれは表面上の理由にすぎず、真の理由は伝統的な家族観やジェンダー観に基づく心理的な要因で、具体的には「自分の妻や子どもが別姓を選ぶことへの恐れ」がその背景にあると考えられます。 また、「同性婚」は約10%、すなわち約1000万人の有権者が強く反対していると想定されており、政治家側も選挙に必ず行く反対派の意見を重視しているというのが、民主主義国家である日本の現状です。 こうした状況を変えるためにできることは、やはり「選挙に行くこと」。そして「立法機関で意思決定をする地位にある人のジェンダーバランスを整える」ことが重要だと思います。 ■ちゃんと知っておきたい【イマドキ婚Q&A】 Q.「法律婚」と「事実婚」にはどういった違いがありますか? A.事実婚は法的な夫婦関係ではないので相続権がなく、子どもの親権は原則母親に 事実婚では法律婚で得られる法的保護や効果を基本的には得られません。たとえば、“配偶者の相続権がない”“子どもが生まれた際に婚外子扱いとなり、父親は認知の手続きが必要”などです。しかし近年は事実婚を選んだカップルも公営住宅に申し込めるなど、法律上の夫婦と同じ権利を与える動きもあります。 Q.「同性婚の法制化」に関する現在の焦点は? A.国側の“生殖関係の有無”という主張にある矛盾が争点 現在、国側は同性婚を認めない理由として「婚姻は生殖関係を保護するためのもの」と説明しています。しかし、この理屈は子どもを産まない異性カップルも結婚できる現状と矛盾します。生殖関係の有無で婚姻を区別することは合理的な理由ではないということを、同性婚実現に向けて追及していきましょう。 Q.現在の「夫婦同氏制度」の背景にはどういった歴史がありますか? A.戦後、それまでの「家制度」が崩壊し、夫か妻どちらかの氏を選択することに 明治31年に施行された明治民法では、妻が夫の家に入る、すなわち入籍して「家」の氏を称することで、同氏になるという決まりでした。しかし昭和22年に改正された民法では、男女平等の理念に沿って、婚姻時に夫婦単位で新たな戸籍をつくり、どちらかの姓を名乗ることに。その仕組みは現在も継続中です。 Q.「選択的夫婦別姓」はどうすれば達成できるのでしょうか? A.公的機関で公認されている通称使用。そのダブルスタンダードを指摘すべき 現在、日本の民法では旧姓の通称使用は認めらていません。しかし、国会をはじめとし、多くの公的機関で通称使用が公認されています。選挙に行った上で、こういった実態と法律との間に生じている矛盾を指摘していくことが、“選択的夫婦別姓”を実現させるアクションのひとつになるでしょう。 Q.結婚の形が多様化しているからこそ「プレナップ(婚前契約書)」はつくっておくべきですか? A.法的な効力を持つかは不明。婚前契約をしても相手が怒れば離婚に 民法755条の“夫婦財産契約”(財産の管理方法、離婚後の財産分与など)以外の婚前契約が、法的に有効かは微妙な問題。たとえば、夫婦間で“浮気してもOK”と約束していたとしても、現在の法律では浮気された側が離婚請求できます。もし約束が有効となっても、相手が怒れば離婚に至るのではないでしょうか。 【憲法学者 木村草太さん】 憲法学者。東京大学法学部卒業。現在は東京都立大学で教授を務める。『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)、『ほとんど憲法』(河出書房新社)、『「差別」のしくみ』(朝日新聞出版)など著書多数。 撮影/森川英里 取材・原文/海渡理恵 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載