「消滅可能性都市」10年後の増田レポートへの「強烈な違和感」…拭えない「上から目線」の感覚
「自治体批判」に対する論点
2024年4月24日、人口戦略会議が発表した「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」(以下、持続可能性レポートとする)が反響を呼んでいる。 【写真】20年後も一流であり続ける「日本唯一の巨大企業」の名前 このレポートは、2014年5月の連休明けに、日本創成会議(座長:増田寛也氏)が示した「消滅可能性都市」リストの10年後の検証である。 検証の結果はこうだ。前回消滅可能性自治体であった896自治体のうち(ただし福島県を除く)、今回それを脱却した自治体が239ある。これに対し、新たに該当した自治体が99(福島県を含む)あって、計744の自治体が消滅可能性自治体である。 このレポートを新聞各紙は大きく報じた。しかし10年前に比べて、今回は冷ややかにその発表を見ていたように思われる。少なくともその解説の多くはレポートに対し批判的である。 そもそも10年前のレポート(のちに増田寛也編『地方消滅』中公新書に所収。以下、本書を一括して地方消滅レポートとする)に対しては、当時各方面から様々な反論があり、かくいう筆者も『地方消滅の罠』(ちくま新書)、『「都市の正義」が地方を壊す』(PHP新書)で細かくその内容を批判した。 今回のレポートを見る限り、この時の議論を繰り返すだけで十分なようにもみえる。 他方で、10年前をよく知らない若い世代もいる。またそれ以上に、このレポートや、それに付随して行われた人口戦略会議関係者のインタビュー記事を見ていると、やはりいくつか批判の論点は提示しておいた方がよさそうである。「当時の我々の警告に対し、国も自治体も真面目に向き合わなかったからこうなった」とでもとれるような文言が見られるからだ。 ここではまず、「消滅可能性都市」リストで使われている、当該地域の将来推計人口の「若年女性人口の減少率」という数字について考えることから新たな批判をはじめてみたい。
「消える」と講評する感覚
持続可能性レポートの論理はこうだ。 子どもを産めるのは女性だけである。その20から39歳の女性人口に注目して「日本の地域将来別推計人口」を精査してみると、2020年から2050年までの間に減少率が50パーセント以上となる自治体が744ある。 若い女性がいなければ、その社会の人口再生産は不可能である。早晩それは消えていく。それゆえこれを消滅可能性自治体としようと。ちなみに全国の市区町村数は1741で、消滅可能性自治体はそのうちの43%にあたる。 10年前すでに、こうした数字で「消滅」を語ることには様々な批判があがっていた。10年後、再び同じ手法で全自治体を、本人たちの言い分も聞かずに勝手に点数づけし、上から「消える」などと講評する感覚が筆者などには分からない。 とはいえこうした手法自体は、どこか国民に、「自治体に危機感を持ってもらう」ものとして受け入れられてもいるようだ(この点についてもしっかりと問題提起する必要があるが、それはまたの機会としよう)。 しかしそうした警告もまた、数字にそれだけの意味があればの話である。だが、これから見るように、この議論は今回もその矛先を間違っているようだ。そしてそれは大変危険な錯誤である。 消滅可能性リストが行っていることを整理すればこうなる。 (1)子どもを産むことができる女性の数が問題の核心である。 (2)その数が、地域的に(自治体間で)偏在している。自治体の中には30年後、若い女性の数が半分になる地域があり、その消滅可能性を危機感として持ってもらわなくてはならない。 他方で、このレポートに先駆けて発表された人口戦略会議『人口ビジョン2100』を見ると、この地域偏在がおきる原因については、10年前の『地方消滅』と同じく、(3)東京一極集中にあると見ているようだ。 ここではこの(1)(2)(3)の関係に絞って考察してみたい。