いらだつ海外投資家 なぜ”日本株売り”が止まらないの?
日本株は収益率のわりに株価が低く評価されている
こうした利益配分のスタンスの違いを念頭に置いたうえで、日本株が国際的にどう評価されているのか確認してみたいと思います。図はROE・PBRマトリックスというもので、縦軸にPBR、横軸にROEをとっています。PBRは株価純資産倍率といい、数値が高いほどその株が高く評価されていることを意味し、横軸のROEは株主資本利益率といい、数値が高いほど少ない資本で多くの利益を稼ぎ出していることを意味しています。つまり、右上(左下)に行くほど高収益・高評価(低収益・低評価)という関係です。 日本株の位置取りを確認すると、日本株は傾向線の下方に位置していることが分かります。つまり、収益率のわりに株価が低く評価されているということです。日本企業と収益率が概ね同じ水準にある英国企業と比較すると、日本株のPBRが大きく水をあけられていることが注目されます。日本株のPBRが約1.3倍なのに対して英国株のそれは約1.8倍ですから、一株あたり純資産が100の株があったとすると、日本では130、英国では180で取引されるというわけです。この両者のかい離を一部説明しているのが、上述した株主還元姿勢の隔たりであると筆者は考えています。これは海外投資家の“苛立ち”を浮き彫りにしているでしょう。 日本では、(筆者の主観ですが、おそらく多くの人にとって納得感があるはずの数値として)配当性向30%が株主還元に積極的か否かの一つの基準になっていますが、欧米企業をスタンダードにするとそれは著しく低い、つまり株主還元に消極的と言えます。日本株はしばしば、その割安感が指摘されますが、割安に放置されるのにはそれなりに理由があるということです。株主還元策は、単純に積極化すれば良いというものではないにせよ、変わる変わる、と言ってなかなか変わらない日本企業の株主還元姿勢をみて海外投資家がイライラしているのは事実でしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。