「九州熱中屋」などを展開するダイヤモンドダイニング。コロナ禍を経た今、飲食店が生き残るために必要なこと
居酒屋「九州熱中屋」など飲食事業をメインに、ビリヤードやダーツなどのアミューズメント事業も手がける株式会社ダイヤモンドダイニング。2010年には「100店舗100業態」を達成して話題を呼び、現在は約120業態、約300店舗を全国に展開する。 【画像】都内でも提供店が多くないというサバ刺し 株式会社ダイヤモンドダイニング第二営業本部本部長の山田貴史さんと、同本部統括部長の林拓未さんに、東京・西新宿にオープンした新業態「酒膳 穂のほまれ(以下、穂のほまれ)」のこだわりや、コロナ後の飲食業界の変化、今後の見通しなどを聞いた。 ■女性ひとりでも入りやすい新業態でターゲットを拡大 ――ダイヤモンドダイニングが展開する代表的な業態を教えてください。 【林】関東・関西で32店舗(2024年9月現在)展開する居酒屋「九州熱中屋」は、「九州の繁盛店が東京にやってきた」というコンセプトで開発した業態です。客単価は4000円前後で、30歳から50歳前半、年収800万ぐらいの会社員を主なターゲットに想定しています。コロナ禍前に、宴会需要を取り込みながら店舗を増やしていきました。 【山田】隣のお客様に「余ったから食べちゃってください」といったやりとりができるような、にぎやかな雰囲気でありながら、手作り感のあるおいしいものを提供しています。「活豊後サバ刺し」と「博多鉄板餃子」が二大看板。特にサバ刺しは、関東や関西で食べられる居酒屋は多くはありません。太平洋岸のサバは生食に適さないので、九州熱中屋では、大分の豊後水道から新鮮なサバを生きたまま直送し、オーダー後にさばいています。 【山田】関東を中心に17店舗(2024年9月現在)を展開する「わらやき屋」は、カツオを中心にいろいろな食材をわら焼きにして提供する、わら焼きの専門店です。弊社代表の松村厚久が高知出身で、高知のおいしいものを伝えたいという想いから、10年以上前に出店しました。 ――6月に東京・西新宿にオープンした「穂のほまれ」について、コンセプトや特徴を教えてください。 【林】「日本に生まれてよかった」「おいしいお米が食べられてよかった」と、日本回帰できるような場所を作りたいと思って作った業態です。24時間以内に店内で精米したお米を、羽釜や土鍋で炊いて提供しています。 ーー日本酒にも力を入れているのですね。 【林】業務用酒類の卸業などを手がける「柴田屋酒店」さんとタッグを組んで厳選しました。日本酒の居酒屋といえば、「獺祭(だっさい)」など有名どころをウリにすることが多いなか、穂のほまれでは、今後広めていきたい“語れる日本酒”という視点で選んでいます。お客様が知らない日本酒に出会って幸せになり、それにより酒蔵さんも幸せになる。不安はありましたが、お酒についてしっかりと伝えることができれば、知名度に関わらずご満足いただけるのだと感じました。 ――オープン後の反響は? 【林】ランチは1人前ずつ羽釜で提供していて、これまでの業態のなかでも一番反応がいいですね。いろいろな利用動機を作りたかったので、女性のお客様ひとりでも入りやすいお店にしたいと考えていました。実際、ランチは7、8割が女性。今までの業態ではなかったことなので、ターゲットを広げられたと思います。夜は日本酒をたくさん楽しまれるお客様もいれば、お米とあてだけを食べて帰られるお客様もいて、この店の特徴だと感じています。 ■コロナ禍以降、中~大型店が苦戦 ――新業態を立ち上げた経緯は? 【林】コロナ前までは絶好調だった九州熱中屋ですが、コロナ禍以降に宴会メインで戦っていくには、場所によっては苦戦する店舗も出てきました。席数の少ない店舗は他業態に変更することで、ある程度の兆しが見えました。一方で中~大型店の対策は難しく、70席以上でもお客様に楽しんでいただける業態が必要になり、「穂のほまれ」の出店に至りました。 ――新しい店舗を立ち上げるときは、どのように企画や準備をしているのですか。 【林】このお店に関しては物件を見て、昼から夜までのお客様の層を見てから決めましたね。今後、ランチの需要があって、土日もターミナル駅から人が集まるエリアで大型店の出店を狙っていたので、そのエリアでも横展開できる業態を考えました。 ――新業態を考えるときは、常に横展開を意識している? 【山田】ダイヤモンドダイニングは創業期から「100店舗100業態」という目標を掲げていました。だから2010年に達成するまでは、どれだけうまくいっても同じ業態の店舗を作ってはいけないというルールがあった。その場所で成功する店は何か、というのを常に考えていました。それもあって業態開発できる人間が社内に山ほどいます。もちろん失敗した業態もたくさんありましたが「100店舗100業態」を達成するなかで得たことのひとつです。 【山田】その後「1000店舗1000億円」という新たな目標ができてから発想が変わって、「九州熱中屋」「わらやき屋」のように複数店舗を展開するように会社がシフトしていきました。新業態を考えるときも、この業態なら何店舗作れるかとイメージしながら開発しています。 ――穂のほまれで、特徴的な戦略などがあれば教えてください。 【山田】ひとつはランチですね。居酒屋のランチって、あまりおいしくないというイメージはありませんか?穂のほまれのランチは、原価50%かけておいしいものを提供しています。グルメサイトの評価基準のひとつは評価の数なので、数が上がらないと、点数もなかなか上がりません。でもランチで口コミを増やせれば、オープン後早々に高い点数がつく。すると点数が高いから、夜にご利用いただくお客様も増えるというサイクルができあがります。 【林】あとオープン時には、キーホルダーを作って配布しました。提示いただいたお客様には特典があって、非常に好評いただいています。以前、オープン前に来店されたお客様がいて、スタッフが「ぜひまた来てください」とこのキーホルダーを渡していて、そういったコミュニケーションが生まれるのがすごくいいと思いました。 【山田】根底にあるのは、おいしいもの、いいサービスを提供して「また来たい」と思ってもらいたいということです。マーケティングや販促もいろいろと行っていますが、そうやってコミュニケーションをとれる人間がいるということが、うちの原点であり強みです。 ■飲食店が生き残るために欠かせないこと ――コロナ禍を経て、飲食業界ではどのような変化がありましたか? 【林】お客様の外食への期待値や求めるレベルは上がっていますね。 【山田】お客様の目利き力も高まり、グルメサイトをあてにしない人も増えています。それに合わせて既存業態のグランドメニューの入れ替えや、新業態の開発に力を入れてきました。ポイントは、お客様が家で食べられない料理を提供するということ。家で作れるものなら、お客様はわざわざ飲食店に行かないんですよ。大事なのは3つ。まずは食材です。例えば「鴨ときどき馬」という鴨料理の専門店があるのですが、自宅でおいしい鴨はなかなか食べられませんよね。 【山田】ふたつめは調理工程です。例えば、家でもご飯は食べられますが、今日精米したご飯を釜で炊いて食べられる家は、やっぱりなかなかない。だから穂のほまれが、うまくいっているんですね。最後は料理人によるプロの味です。プロの料理技術で、家では出せない味を出す。バランスはいろいろですが、この3つの融合にこだわらないと、飲食店は生き残れません。 【山田】コロナによって10年後に来るはずの未来が、3年で来てしまったというような感じです。人手不足の問題もそのひとつ。新卒ひとり当たりの採用単価は、コロナ前の約3倍。中途でも1.5倍ぐらい。とにかく新卒を採れない状態です。 【林】コロナ禍は、親に出勤したらダメだと言われたというアルバイトさんもいました。その方たちが卒業したときに、やはり業界として選ばれづらくなったのかと思います。 【山田】今までは挨拶やお見送りなど、一つひとつの接点の質を高めることを重視してきました。でもこれからは、人がいないなかでも、できるサービスを提供することが課題になってくると思います。 ■大切なのは「お客様に楽しんでいただきたい」という想い ――今後の飲食業界の傾向は? 【山田】業態の耐用年数といいますか、お店が入れ替わるサイクルは早くなると思います。昔は30年続く業態を目指していましたが、今後は難しいでしょう。死んでしまった店を、業態を変えて業績を改善するというケースが増えてくると思います。それに伴って、例えば和食からイタリアンに業態を変更しても、大きなコストがかからないような設備を最初から導入するといったことが必要になってきます。口で言うのは簡単ですが、ノウハウも知恵も必要で、実際はすごく難しいですね。でも弊社は業態変更が得意。 【山田】そこで、どういう業態を作っていくのか。例えば五島列島の食材を使って郷土料理などを提供する「五島人」など、私たちは生産者の想いを伝える業態開発がひとつの強みです。ただ、近年は同じような店を出す会社も増えてきて、自社の強みだけで戦っていくのはなかなか難しい。だから業界内の他社と手を組んで、新業態を作るということも、これから始まるのではないかと思っています。 ――今後の展望を教えてください。 【山田】LTV(顧客生涯価値)最大化は、グループが掲げる方針のひとつです。ひとりのお客様が生涯にわたって、DDグループをいろいろな場所・機会でご利用いただく。それと同時に、「よかった」と思った店でリピーターにもなっていただく。そのお客様の口コミで、さらに100人のお客様が集まれば、その方には100人分の売り上げに貢献していただいたことになります。LTVはその掛け合わせ。最大化するために必要なのは「お客様に楽しんでいただきたい」という想いが、社員にどれだけ根づいているかです。やはりそれを一番大事にしていたいですね。