尾崎世界観が「こんなの誰が読むんだろう?」と思いながらも小説を書く理由【二度の芥川賞候補、作家兼ミュージシャン】
――一般的には「圧倒的なできなさ」というのは、絶望や不安、苦しみ以外の何ものでもない気がするのですが。 曲作りをしていて「ああ、今できないな」と思う時、もちろん苦しみもあるんですが、これは絶対に「来る」という前触れでもあって。「これくらいできなければ、そろそろだろう」という感覚があるんです。 だから「できない」が何個かたまると、そろそろまとめてデカいのが来そうだというのがわかるようになりました。 でも、小説に関しては、本当にできないまま終わる可能性があるから怖い。小説は1行書いてもその先が書ける保証がないので、常にドキドキしながら取り組んでいます。 ただ、それもすべて音楽活動があってこそなんですけどね。だから、他の作家さんが書けずに苦しんでいる感覚とはちょっと違って、もう少しぜいたくな感覚なのかもしれません。書けないことにちょっと安心しているというか。 ――「できない」「書けない」ことを楽しんでいる。 そうですね。なんか嬉しいんですよね。小説を書いている時は、書けなくて当たり前という感覚でやれているので。だから書けたときはすごくうれしいんです。 ● 1行目に書いたものが別のものになることも 『転の声』はいきなり頭から変わっている ――文章を書き始める時、白紙を目の前にして恐怖心はわきますか。最初の1行目がどうしても浮かばないとか。 いつもiPhoneのメモに書いていて、たまに「ポメラ」(デジタルメモ帳)を使ったりもします。メモには常に同時進行でエッセイや連載小説など、いろんなものを書いていて、さらにそのすき間に細かいアイデアを書いていくので、基本的に白紙という状態がありません。 曲をつくる際は、歌詞の1行目が出てこなければ、先に他のBメロを書いたり、サビを書いたり、パズルみたいにして進めることも多いです。それは先にメロディーがあるからできることなんですが。