震災で亡くなった方々の名前を読み上げるラジオ局「FMあおぞら」
THE PAGE
東日本大震災から5年にあたる2016年3月11日、宮城県亘理町にある臨時災害ラジオ局「FMあおぞら」は、震災で亡くなった人たちの名前や年齢、地名を一人ひとり読み上げる放送を行います。名前の読み上げは月命日ごとに続けられてきました。臨時災害ラジオ局としての免許期間が終了するため、今回が最後の「読み上げ」となります。スタッフ3人が1時間以上かけて300人を超す名前を読み上げる取り組みは、地域密着型のメディアの意義をあらためて教えてくれるようです。放送業務を担当しているNPO法人「FMあおぞら」代表の吉田圭さんらに話を聞きました。
「あおぞら」は町長を放送局長に、2011年4月1日にスタートしました。臨時災害ラジオとしての免許が2016年3月31日に切れるため、放送を初めて開始した日時でもある3月24日午後4時に停波する予定です。吉田さんらは9358人分の署名を添えて「地域放送を推進する」ように町と議会に要望・請願しています。 震災で亡くなった人の名前などを読み上げる放送は、2011年4月1日に亘理町からの「お知らせ」の形で始まりました。多くの人々が避難所に駆け込んで1カ月足らず。家族や知人の安否さえはっきりしませんでした。被災地の自治体にとっても、震災で亡くなった人や避難所に駆け込んだ人たちの個人情報をどこまで明らかにできるか悩んだタイミングでした。 「あおぞら」の放送総合担当チーフでもある吉田さんは「当時、町内は大混乱に陥り、どこのどなたが亡くなったのか、親しい知人や親類でも知ることが難しい状況でした。そんな中、町に働き掛けて亡くなった方々のお名前を『お知らせ』として読み上げました。お名前を読み上げているうちに、わたしたちが今、読み上げているお名前は、この人たちにとっては、人生そのものなのではないか、と思うようになりました」と当時を振り返ります。 以来、月命日ごとに、亡くなった人たちの名前、年齢、地名を読み上げてきました。テレビ、新聞などマスメディアの災害報道に普通に出てくる手法のようにも見えますが、月命日ごとの放送を実際に聴いてみると、マスメディアの雰囲気とはかなり異なるニュアンスを感じます。 吉田さんは「お名前をただ読むのではなく、亡くなった方に直接呼び掛けるようにしました」と、その理由を説明します。報道する側が、亡くなった方々に直接、訴える手法は、地域密着型のメディアならではと言えるでしょう。「お一人おひとりがこの町に暮らし、夢も希望もあったはずです。それを単なる数で示されても伝わりません。わたしたちは、その人たちの人生が間違いなくそこにあったということを忘れたくない。そして、そのことを未来につなげるためにはどうしたらいいかについて考えていくためにも、亡くなった方々の人生の重みをしっかり受け止めたいと考えました」 インタビューの最中に「東日本大震災の犠牲者」と表現したところ、サブチーフの西垣裕子さんが「震災で亡くなった方々を『犠牲者』とは言いたくないんです」とただしてくれました。震災による大津波のために死に至った場合でもあっても、地域密着型のメディアの現場で、伝える仕事をする以上、『誰かのために犠牲になった』と感じさせるような響きは使いたくない。吉田さんも「そうだとしたら、生きている人にとってはあまりにも悲しすぎますから……」と付け加えました。 (メディアプロジェクト仙台:佐藤和文)