「いつもの先生」が教えることに意味がある──性教育を担える教員をどう育成するか【#性教育の現場から】
性をめぐる考え方は社会の動きに合わせて日々、更新されていく。例えば、性の多様性については近年、理解が大きく進んだ。授業でも以前は、「性的マイノリティの人たちと私」というように分けて考えていたが、現在では「多様な性の一人としての私」というように捉え方が変わっている。 キャッチアップしていくために学校の外に学びの場を求める先生もいる。性教育に携わる教員が「性を教える方法」を学ぶ場の一つが、一般社団法人“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)だ。 教員が中心となって1982年に設立された性教協は、セクシュアリティ教育の理論や実践について研究・シェアしている組織だ。教員だけでなく、研究者、助産師、産婦人科医、養護施設の指導員や教員、性に関する電話相談を行っている人、保護者など幅広い立場の人たちが参加している。会員は800人を超える。全国各地にサークルがあり、サークル活動での研究や実践を夏期セミナーなどに持ち寄って報告し合う。また、「季刊セクシュアリティ」というセクシュアリティ教育に関する専門誌を企画・編集している。
水野先生は性教協の代表幹事で、「性と生」の教科主任をしている荻野雄飛先生(30)も会員だ。 「初めて『性と生』を担当した6年前にセミナーで授業の報告をしましたが、自分のようなまだ経験の浅い若者にも温かい応援がありました。そのことで次の学期から頑張ろうと思えた。引っかかっていること、知恵をもらいたいことを、誰からも否定されることなく相談できる安心・安全な場です」 代表幹事の一人である埼玉大学の田代美江子さんは、性教協についてこう語る。 「とても自由な組織です。誰も権威的ではなくフラットで、若い人たちとも議論をします。セクシュアリティ教育について、教員も子どもたちも正しい答えを知りたがりますが、性教協に統一見解があるわけではありません。例えば、男女の性器をどう呼ぶかについても、率直に議論をします。親しみのある言い方の『おちんちん』『おちょんちょん』という呼称を大切にする人もいます。また『外性器』『ペニス』『ワギナ』といった正確な言葉を使うことを重視する立場もあります。お互いの意見を言い合いますが、どちらかに決めるということはしません」