「いつもの先生」が教えることに意味がある──性教育を担える教員をどう育成するか【#性教育の現場から】
1996年から続く「性と生」の授業に同校の教員として当初から関わり、今も非常勤講師として教え続けている水野哲夫先生(68)はどう考えるのか。 「『ペニスさしたい』というような感想もカットせず印刷して配ると、『誰だよ、こんなこと書いたのは』とか『こういうのはシカトがいちばん』などという発言が出たりします。こんなふうに生徒たちの間で笑われてもいいし、みんなで真剣に考える対象にされてもいい。教員からは『自分の欲望のままに書くのはどうか』くらいは言っていいと思います。対処の仕方は一つではないと思います。大事なのは授業に関するどんなコメントも分析と批評の対象とすることです。真剣な意見が多くなれば、ふざけたものは減っていきます」
阿部先生は、「ペニスさしたい」という感想に対し、他の生徒から「怖い」「ちゃんと教えてもらっているのに、しっかり学ばないのかな?」などの意見が出た、と言う。 阿部先生と三坂先生は授業で、「この言い方は相手に自分の欲求を一方的に押しつけているだけだよ。相手も人権を持った一人の人間なのだから、相手の意見を尊重して合意の上でなければいけないのじゃないかな」と伝えた。 「こういう感想に対して『それはダメでしょ』と教師が言ってしまっては、こちらの価値の押し付けで道徳の授業になってしまいます。道徳でものを言うのは簡単ですが、『性と生』は生徒が科学的にものを考えて自分でつくっていく授業です」(阿部先生)
性を教える教員にも、安全な学びの場を
多くの小・中・高等学校では、いまだに十分な時間が性教育に割かれることはない。先生たちも例外ではなく、ごく基本的な性の知識しか与えられてこなかった。町井先生は、「性と生」を担当してその内容に衝撃を受けたという。 「当初は性について教えること自体にも抵抗感がありました。でも出産を経験したタイミングで副校長から『見方が変わるから一度はやってみたほうがいいよ』と言われ、思い切って担当になりました。1年目は『私は何も知らないから』と生徒たちに正直に伝えて、ペアを組んでいる水野先生の授業を受ける形に。そこで、体のつくりだけでなく人権なども学ぶことに感動し、これは絶対に生徒に知ってもらわないと、と思いました」 「男らしさ」や「女らしさ」の固定観念を崩すジェンダーの授業からは、自分もその固定観念に縛られていたことに気づいたという。 「それまでは『女子なんだから足を閉じなよ』『男子なんだからしょうがないよ』などと生徒に平気で言っていたんです。今ではまったく意識が変わりました」