「いきなりすき焼き!?」いきなりステーキ運営会社の新業態、老舗「木曽路」がマネできない巧妙戦略
私は最初、真ん中のランクの黒毛和牛でお願いしました。そして割り下をかけ、レアのいい焼け具合になったところで取り皿に盛り付けていただきます。 生卵は「真っ赤卵(まっからん)」というブランド卵で、黄身の色があざやかなオレンジ色なのが食欲をそそります。食べ方は自由ですが、私の場合は溶き卵にさっとお肉をくぐらせて、白米の上にのせて頬張ります。 「これは美味しいですね」 10月に記事を書いたときに思い描いていたような笑みがおもわずこぼれました。期待どおり、そして想像していたよりもずっと美味しい料理でした。 追加肉が注文できるので米沢牛も注文しました。こちらは陳腐な表現になりますが「飲める牛肉」という食感で、まさに至高のひとくちでした。 食間の口直しで京都から取り寄せた白菜の漬物に軽く醤油をかけて食べ、その後はまた肉を愉しみます。肉好き、そして炭水化物好きの私にとっては、極上の牛肉だけをひたすら食べ続けられるのは至福のひとときです。 そして私見ですがすき焼きに野菜を入れるのは野暮だとも思っています。鍋に野菜の水分が入るので、普通の老舗のすき焼きコースでは最初と最後で肉の味が変わってしまうのです。『すきはな』ではそれを気にする必要がありません。 最後は卵をごはんにかけて卵かけごはんとして食事を〆ます。そこにのせるあおさが秀逸で、卵かけごはんの風味を際立たせてくれます。 デザートはよつ葉乳業のソフトクリーム。来店してからお会計まで約30分の幸せなひとときでした。 翌日、私もそれなりに多忙ですが、記事の公平性をたもつために閉店間際のお店に滑り込みで来店して一番安い国産牛も注文しました。
これでひととおり『すきはな』のお品書きは愉しませていただいたことになります。 そしてグルメとして料理の評価点は米沢牛のコースを前提に90点としました。老舗のすき焼き店で私が知っている限り、これよりも高い点を自信をもってつけられるのは一店のみ。いや三店かも。それぐらいとび抜けて高い評価にさせていただきました。 ● 『いきなりステーキ』と『すきはな』は客層が違う さて、私にとってはここからが記事の本題です。ビジネスの評論家としてこの新規業態のビジネスモデル、70点をつけさせていただきました。その理由を解説してみたいと思います。 着眼点としては現状ではなく1年後を想定して、 (1)行列ができ、高回転率で運営できるか? (2)多店舗展開が可能か? (3)多店舗展開でクオリティが変わらないか? について検討させていただきます。 同じ会社が運営する『いきなりステーキ』は開業直後、人気を呼んで店舗数も増え、お店の前には行列ができました。 その後、店舗数が増えすぎてこのブームが失速したのは読者の皆さんもご存じのとおりですが、もし店舗を増やすペースをもっと妥当な線におさえていたら、いきなりステーキは今の状況よりも繁盛していたかもしれません。 それと比較して『すきはな』に行列ができるとしたら、どのような顧客がそこに並ぶのでしょうか? 論理的に考えると『いきなりステーキ』と『すきはな』は客層が違うと考えられます。 理由は価格と量の違いです。 『いきなりステーキ』は、おいしい肉をお腹いっぱい食べたいという肉好きの顧客層にとってたまらなく素晴らしいお店として繁盛しました。開店当時の価格はサーロインステーキが1g=7円の設定でした。300gの大きなステーキを注文しても2100円です。それを「腹ペコで来店していきなり食べてもらう」というコンセプトが、胃袋が大きい顧客層にささったのです。 それと比較すれば『すきはな』のすき焼きの肉は一皿110gです。同じ顧客層が来店したとして真ん中の黒毛和牛コースを追加2皿で計330g注文すれば、6490円、ブランド和牛なら1万450円になります。 牛肉価格が上がっているので『いきなりステーキ』の現在の価格もリブロースが300gで3600円ですが、やはり『いきなりステーキ』の常連客から見れば『すきはな』は価格帯が違うのです。 『すきはな』が狙う客単価は3000円前後ということですから、論理的にはターゲットとなる顧客層は110gと少ない量の牛肉を味わって食べる胃袋の小さいグルメ層です。それを新規で集客しなければなりません。