【プロの観戦眼36】望月慎太郎の素早い動きに注目! 前に走る途中でボールに触りネットに瞬間移動~小山慶大<SMASH>
このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のここがすごい」という着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。第36回は、ジュニア育成の名門「Fテニス」を経て、指導者として独立した小山慶大氏に話を聞いた。 【連続写真】打ちながらネットに走っている望月慎太郎のバックハンド『25コマの超分解写真』 小山氏がぜひ見てほしいと推すのは、今後の日本男子を担う存在、望月慎太郎だ。特にネットを奪う嗅覚、動きの鋭さが必見だという。 「望月選手は一発の強さという点ではそれほどでもありませんが、ラリー中に1本いいショットが入ったり、相手がニュートラルなボールを返してきたりすると、その瞬間に素早くネットへのアプローチショットを放ちます」 その打ち方が他の選手にはない機敏さだと小山氏は指摘する。 「ポジションを上げて打つ、なんていう表現では足りません。ネットダッシュする途中でボールに触り、そのままネットに瞬間移動する感じです」 近年のテニスは、ストロークでほぼ相手を押し込むか、あるいはアプローチで優位を築き、ボレーは仕上げとして使うケースが多い。しかし望月はそうではない。ネットに出ることを最優先として、その前のショットを考えていると小山氏は分析する。 「相手のボールをスーパーライジングで捉え、スイングはそれほど激しくしません。前に入りながらコンパクトに面を合わせ、時間を短縮して走ります」と小山氏。 球威で押し込むわけではないので、「アプローチの精度が悪いと自爆行為になる」という危険もある。しかし「彼は面を作る感覚があるから、高い精度でボールに合わせられる」とのこと。 さらに、それほど強振していなくても、前に走り込んでいるぶん、それがパワーとして加わる。「当てただけのように見えても意外にボールは伸びるので、相手は後手に回る」と、その効果を説明してくれた。 この望月のスタイルは、サーフェスによる影響が小さくないそうだ。「クレーやスローハードだと、ボールの伸びが弱まります。でも、芝とか高速ハードの有明などでは強いですね」。速いサーフェスでは特に望月の活躍を期待しよう。 ◆Shintaro Mochizuki/望月慎太郎(木下グループ) 2003年6月2日生まれ。175cm、70kg、右利き、両手BH。12歳の時に盛田ファンドに合格し、米国のIMGアカデミーに留学。19年に日本人男子として初めてウインブルドンJrを制し、同年プロ転向。速い展開と頭脳的な戦術が持ち味で、23年のジャパンOPでは4強入り。四大大会では本戦の舞台を計3回経験している。自己最高ATPランキング129位。 取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)