『虎に翼』ファンの宇垣美里×明治大学村上一博対談「ドラマの核となる憲法14条とは? 今改めて深く知りたい憲法のこと」
なぜ日本国憲法14条を聞いただけで泣けてくるのだろう?
――法律のことでいうと、このドラマでは第一回の冒頭シーンで「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」というナレーションが流れ、日本国憲法14条が重要な要素になっています。 宇垣 本当に、なぜ憲法14条を聞いただけで泣けてくるんだろうって……。一話のときはまだ思い入れもなかったんですけど、二度目のナレーションを聞いたときは、なぜか泣けてきました。戦争によって奪われてしまったものと、ここにくるまでに志半ばで脱落せざるを得なかった寅ちゃんの仲間たちのことを想うとたまらなくて。私は映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大好きなのですが、支配者であるイモータン・ジョーの子どもを産むために集められたワイブスたちの部屋の壁に「私たちはものじゃない」とペンキで書かれていて、よねさんのカフェの壁に書かれた14条の文面からそれを思い出したんですね。滴るペンキがまるで血のようで。憲法も、血で書いたようなものなんだろうなと思ったし、だからこそ守らなきゃいけないものだと実感しました。 ――当時の日本において、憲法14条の条文に書かれたことは、画期的だったのではないでしょうか? 村上 おっしゃる通りで、当時の日本の社会にとって、憲法14条というのは、とんでもなく画期的でした。人種、信条、性別、社会的身分、門地……門地というのはいろいろな問題をはらんでいる言葉ですけど、そういう言葉がすべて入っていてそれは皆平等だと書いてあるわけですから。憲法というのは大きな目標のようなもので、そこに書いてあることを、ひとつひとつの法律で実現していかないといけない。それは結婚の問題や、福祉、ありとあらゆる分野で実現が必要でした。 ――『虎に翼』において、憲法14条が核になるということは、最初から決まっていたのでしょうか? 村上 女性の権利を戦後の世の中でどう守っていくか、拡大していくかということが本作のテーマなので、当初から自然と決まっていました。でも、一回目の冒頭から、14条がナレーションで読まれたことにはびっくりしたし、斬新でした。一方でドラマを観ている方には、どうして14条のナレーションから始まるのか、その意味がわからなかった人は多いでしょうね。その後、二度目に14条が読まれるときには、いろんな女性たちの悲しみやこれまでの経験がドラマの中で描かれているから、その伏線が回収されてるんですよ。 宇垣 この二度目の14条を聞いてると、明律大学で寅子と共に学んでいた女子部の人たちの顔が思い浮かびます。 村上 私も、このシーンに関しては、なんてうまい演出なんだろうと思いました。いろんな捉え方ができるように、柔軟に作られていますね。 宇垣 憲法14条は、学校の授業でも習ったし、文字として認識してきましたが、ドラマを観ていると「擬人化」じゃないですけど、登場人物に重なって見えたりもして。例えば、寅子の夫の優三さんが寅子に「寅ちゃんができるのは、寅ちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。別の仕事を始めてもいい。優未のいいお母さんでいてもいい。僕の大好きな、あの何かに無我夢中になってるときの寅ちゃんの顔をして、何かに頑張ってること、いや、やっぱり頑張らなくてもいい、寅ちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること、それが僕の望みです」という場面がありましたが、これが憲法14条に重なって、すごく血の通ったものであると感じました。それに憲法って血みどろになって獲得してきたものでしょうし。