ドル円レートは防衛ラインを超えて一時1ドル153円台に:為替介入はいつ実施されてもおかしくない状況
岸田首相訪米が為替介入の障害になった可能性
4月10日の米国金融市場で、ドル円レートは一時1ドル153円台まで円安が進んだ。約34年ぶりの円安水準だ。 日本政府は、1ドル152円程度を防衛ラインと考えていると推測されるが、為替市場も同水準で円買いドル売りの為替介入が実施される可能性を強く意識した結果、3月下旬以降、152円に達する直前の水準でドル円レートは長らく膠着していた。 その膠着を崩したのは、10日に発表された米国3月CPIが事前予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が一段と後退したためだ。 防衛ラインを超えて円安が進んだ10日の米国金融市場で、日本政府は円買いドル売りの為替介入に動いてもおかしくなかった。しかし、実際には介入を実施しなかった理由として考えられる要因の一つは、国賓待遇で訪米中の岸田首相が、同日にバイデン大統領と首脳会談を行い、その後に記者会見が予定されていたことではないか。 米国政府は、先進国による為替介入については、為替操作につながるものとして、基本的には批判的だ。仮に岸田首相の訪米中に日本政府が為替介入を行えば、歓迎ムードに水をさすことになりかねない。さらに、首脳会談後の記者会見で、岸田首相が説明を求められる可能性も考えられた。
1ドル152円は防衛ライン
日本政府は、為替の特定水準に目標のようなものは設定していない、というのが公式見解だ。しかしこれは、為替の水準や方向性を意識した為替介入は為替操作に当たり、為替介入が容認されるのは、投機的な動きを背景にボラティリティが過度に高まる場合に限定される、とする米国政府の見解に配慮したものだ。 実際には、2022年、2023年に円安のピークとなった1ドル152円程度を超えて円安が進めば、円安に弾みがついてしまい、さらなる国内の物価上昇を促すことを警戒していたはずだ。従って、1ドル152円程度は、日本政府の防衛ラインと考えられる。 ドル円レートは、10日に1ドル153円台まで円安が進んだ後、再び152円台まで押し戻され、円安が一気に進むという事態はなんとか回避されている。これは、FRBの利上げ観測の後退が米国長期金利の上昇や米国株の下落を生じさせ、そうした金融市場の不安定化がリスク回避の円買いを生じさせていることが一因と考えられる。 さらに、円安進行が国内物価を押し上げることで、日本銀行の追加利上げが早まるとの観測も、さらなる円安を食い止める要因となっている。