山中瑶子監督が語る『ナミビアの砂漠』。無意味に過ごす時期があってもいいし、一生それでもいい
「河合さんはとても自覚的に自分の身体を使ってくれた」
山中:『ナミビアの砂漠』では、実際に感じていることと身体に出ることのズレを表現したい気持ちもありました。言っていることは嘘でも、仕草を見たら、その人の考えていることが見えてくるような。だから身体的な表現が多くなっていて。 それを脚本上で読むと、街で突然側転をするだとか、意味が通りづらい部分もあったと思うんです。でもスタッフたちは「この動きはどういう意味ですか」と誰も聞いてこなくて。すごくいい現場だな、と思いました(笑)。 ―劇中、河合さんをはじめとして、俳優さんたちの身体が本当に魅力的で。躍動している身体を、躍動したまま撮れるのがすごいと思いました。 山中:カナの身体をのびのび健康的に撮るということはすごく意識していました。河合さんには決めた範囲の中ではなるべく自由に動いてもらいたかったので、それを起動力高く追えるようにカメラマンの米倉(伸)さんとも相談して、手持ちの、軽めのカメラで撮影をして。画面をスタンダードサイズにしたのも、サイズを狭めることで、躍動感がはみ出るような感じ、エネルギーを持て余している感じが伝わるかなと思ったからです。 20歳そこそこの、急に社会に放り出されて、自我があるようでない、自分の体だけすごく大きくなったような持て余し方。自分の身体のコントロールできなさ、みたいな部分が表現できればと考えていました。 ―芯があるようなないような、ぐにゃぐにゃした歩き方や走り方も印象的でした。 山中:大股で、ちょっと間抜けな顔で歩いてもらったり、コツコツ鳴る厚底のつっかけみたいな靴を履いてもらったりしましたね。でも、私が言ったのはそれくらいで! 河合さんは私のちょっとした言葉から本当に多くのことを受け取ってくれるんです。カナは身体を持て余しているかもしれないけれど、河合さんはとても自覚的に自分の身体を使ってくれました。 ―劇中、かなり激しく身体を動かすシーンもあったと思いますが、役者さんのケアはどのようにしていましたか? 取っ組み合いの喧嘩など、物理的な危険がともなうシーンも多かったのではないかと思います。 山中:本当に危険なシーンにはスタントの人に入ってもらいました。例えば階段を転げ落ちるシーンについて「河合さん体張ってたね!」と言われることもあるのですが、そんなわけないでしょ、と(笑)。喧嘩のシーンにはアクション部を入れましたし、事前にリハーサルを3、4回して、なるべくテイクは重ねずに撮りましたね。振りも全部決めて。 ―喧嘩シーンの振りはどうやって決めていったのでしょうか? 山中:どうしたら滑稽に見えるかな、ということを考えました。アクション部の方がつけてくれる振りは、基本的に本当の暴力というか、映画で格好良く見える暴力という感じなんです。でも、それだとあんまり笑えないねという話になり。そこからは河合さんや金子(大地)さんも一緒に案を出し合ってくれました。「肩車したら、プロレスっぽくなっていいかもね」とか。