興國高校サッカー部 インターハイ初出場への軌跡(六車拓也監督)
「どうしても出場したい」直訴に見た選手の成長
決勝を前にもう一つ、チームの成長を感じた出来事があります。それは夜にスターティングメンバーを発表したあとのこと。一部の選手たちから「納得できない」という声が上がりました。サッカー選手ですから、自分がピッチに立ちたい、優勝させたいと考えるのは当然でしょう。ただ、そうした直訴は、1年前、自分が監督に就任した当初のチームではあり得なかった。「監督が決めたことだから」とすんなり受け入れたはずです。 1年前の選手たちは、私たちスタッフが発信したことを謙虚に受け止め、とにかく愚直にやる傾向がありました。指示に対して素直で従順。指導しやすいものの、一方ではもっと主体性を持ち、時には我を出してほしいと物足りなさがあった。真面目に一生懸命やっているけれど、本気の限界は知らないのでは? とも感じていた。 「この選手たちならもっとできる」。それでこの1年はまず、選手自身が選択・思考・決断する機会を数多く作り、スタッフは見守ったり寄り添うことに徹してきました。指導者が答えを教えてしまったほうが手っ取り早いのですが、それでは本当の力にならない。選手の目に見えていることを優先し、考える力、やる力を信じ、自ら答えを出すのを待った。 とはいえ、放任になってしまわないようアプローチはしてきたつもりです。最初の頃は「それでいいのか?」、「どうする?」と問いかけると「分かんないっす」と返ってきたりして……。それでも、考え方を整理させたり視野を広げることに粘り強く注力しているうちに、徐々に選手自ら決断できるようになりました。今は新しいアイデアがどんどん生まれ、競争を楽しむ力も備わっている。日々の取り組みがプレーや試合にダイレクトに反映される楽しさを理解したのでしょう。 そんな選手たちが、「どうしても出場したい」と直訴してきた。よく言ってきてくれたなと、これは本当にうれしかったですね。選手代表を通じて選考理由を説明し、今回選んだメンバーが自分の考える現時点のベストであること、これまで出たい気持ちを抑えて応援・サポートに回ってくれてきた彼らに同じことをしてやってほしいと伝えたところ、二つ返事で「ハイ!」、「そういうことなら今回は自分たちが、いつもしてもらっている倍以上のサポートをします」と。そうして実際、前日はピッチに立っていたメンバーが、スタンドから声を枯らして応援をし、非常にいい雰囲気を作り盛り立ててくれた。 選手一人ひとりが、そのとき自分にできる役割を理解し、全力で果たす。いい選手、いいチームになったなと喜びがこみ上げてきました。