桐光松井 初戦で課題を露呈 ―スカウトは「腕を振り切るボールがなかった」―
対する相洋はバッティングマシンのスピードを140kmに設定。さらに位置をマウンドから5m前にずらして、松井のストレートへの対策を積んできた。高橋伸明監督は試合後に「これだけ打てるとは思わなかった」と感想を口にしているほどだ。 春の選抜出場を逃し、迎えた最後の夏の初っ端。平常心を保つこともできていなかった。 「待ちに待った夏の大会なので。公式戦になるとどうしてもテンションが上がり、球も上ずってしまった。ストレートの走りもよくなかった。最後は開き直って投げたら、いいところにいきましたけど」 精神的な力みに加えて、連日の猛暑が、174cm、74kgと肉体的に恵まれているわけではない松井に襲いかかる。普段からコートを着ることで暑さへの耐久性を鍛えてきた松井だが、試合開始の午前9時で、30度を超えた気温と湿度には、さすがに体力を消耗したという。最終回にヒットと2四球から一打同点のピンチを招いたのも、猛暑と決して無関係ではない。 「最後は体力が減ってきつかった。暑さ対策をもっとしていかないといけない」 自滅に近い形で五回に同点に追いつかれてからは、ついにスライダーの封印を解いた。 そこからは、4イニングで7奪三振を奪った。七回裏に連続押し出し死球で2点を勝ち越して何とか緒戦を突破したが、甲子園までの道程を考えれば、不安が大きくのしかかるスタートとなった。 「今日は苦しい試合を拾えた。ここから楽になるわけではないけど、ここがあったから一気にいけたと思えるように。今日の試合を糧にして、次の試合へ向けて自分のピッチングを見つめ直していきたい」 昨年の神奈川県大会では、初戦でいきなり17奪三振をマークした。だが、勝ち抜いていくにつれて「全身に疲れがたまってきているのを感じた」と松井は振り返っている。その苦い思いを繰り返さないためにも、1試合、1試合全力のスタイルを捨てなければ激戦区神奈川を勝ち抜き、全国の頂点に立つことは難しい。 チームでは4番を打つ山田将士(2年)が2番手投手となるが、春先の故障明けからなかなか調子が上がらない。ベンチの恩地偉仁、佐々木達也の両1年生投手は、松井に代わって先発マウンドに送り出せるほどの信頼感はない。なおさら松井への負担をできるだけ軽くさせるような試合展開をしなければならないが、この日の球数は124、思惑通りには運ばなかった。 17日の3回戦(相模原球場)の相手は上矢部に決まった。優勝まで殘り6試合。順当に勝ち進めば名門・横浜と当たる24日の準々決勝(横浜スタジアム)が大きな関門となって待ち受ける。プロ垂涎の怪物左腕は、立ち塞がる体力消耗と猛暑という2つの壁を越えて甲子園に辿りつくことができるのだろうか? (文責・藤江直人/論スポ)