東京都内で600坪以上の大豪邸に住む人たちの「暮らし」と「苦悩」
写真:現代ビジネス
東京都内でも屈指の高級住宅街として知られる世田谷。そんな住宅街を歩いていると、一帯が森のような木々に覆われる異様な一角が目に入る。 木々の陰からにわかに敷地内の豪邸が垣間見えるが、広すぎて中の詳細はうかがい知れない。「超」がつくほどの高級住宅街にあって、優に600坪は超える大豪邸であることは間違いない。 「この地は江戸時代に幕府直轄の天領となり、私の一族は代々この地を受け継いできました。近くの寺に置く過去帳で遡れる限り、私は17代目の当主になります。敷地面積ですか? よそ様に貸している分も含めれば、だいたい2400坪というところでしょうか」 そう言って敷地内に迎え入れてくれた当主は、「匿名」を条件に取材に応じてくれた。 「どうぞこちらへ」と玄関を通されると、豪邸内はまず20畳近くある和室が広がる。和室には「特注」だという大きなガラス窓が設けられていて、外から新緑がまぶしいほどに目に飛び込んできた。森林を切り開いたように作られた日本庭園は圧巻で、樹齢を重ねた松の木に、この日は梅雨時とあってアジサイの花が彩りを添えていた。 「松の木などは放っておくとすぐにダメになってしまうので、手入れは怠れません。年に2回ほどは5名ほどの庭師さんに来ていただき、数日かけて大規模に整備してもらっているんです」 もちろん、費用はばかにならず、「年間維持費で3ケタはかかっている」と当主は苦笑いを浮かべた。専門業者によれば、この規模であれば年間維持費で500万円はかかるという。 本誌記者がその額に驚いている様子を見ると、当主はポツリと「胸中」を語り出した。 「みなさん、われわれのように大きな敷地を都内で持っているものを見て、『うらやましい』などと思うでしょう。でも、実はそんなことはないんです。一族はこの土地を守り、維持しようと苦悩し続けてきたんです」 最初の苦難は戦後すぐのことで、農地改革と資産課税で所有地をごっそり召し上げられた。 「当時、私は中学生でしたが、制服も買ってもらえないので国民服を着ていかざるを得ず、同級生にバカにされました。 1970年代、先代が亡くなった際の相続もきつい体験でした。この土地の当時の路線価は坪8万円ほどだったのですが、相続税評価額は3倍ほどの25万円。しかも、当時は税率が70%でしたから、土地を売って納税する以外にありませんでした。これで土地の半分を失いました」 それでもまだ2400坪の土地が残っているというのも凄いが、苦悩はそれで終わらなかった。当主は「'80年代のバブル時にも苦労した」と言う。 「'80年代の不動産バブルにのって、この土地も地価が坪500万円ほどまで急上昇しました。周囲からは『儲かって仕方ないでしょう』などと羨ましがられたのですが、とんでもない。土地を守ろうとするわれわれにとっては、固定資産税がうなぎ上りに上がっていく地獄の日々だったんです。
本文:6,563文字
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週刊現代