キリン「ファンケル買収」の紆余曲折が残した教訓、TOB期限を3度延長、価格約4%引き上げやっと成立
それだけではなかった。「これ以上価格を引き上げない」「再延長はしない」と異例とも言える取締役会決議を公表し、応募数が少ないままではTOBを中止するとほのめかした。 関係者によると、ファンド側はキリン側がTOB価格を引き上げた後も「2019年に創業家から株式を買い取った際の1株3270円より安い価格ではTOBに応じない」と強硬姿勢を崩さなかったようだ。 8月13日には保有比率が8.94%に到達したと報告。延長後の期限ギリギリとなる8月22日には9.94%まで保有比率を引き上げた。この間、2903円という高値でもファンケル株を買いあさっていた。
結局、議決権ベースでの保有比率が10%以上に達したことで、キリン側はTOB期間を延長する必要に迫られた。10日間期間を延長し、9月11日にようやく決着。ファンド側の度重なる買い増しにもかかわらず、キリンHDは最終的に42.72%の株式を取得した。 関係者によると、エムワイアルファ側には最終盤まで勝算があったようだ。TOBを実施する際には多くのケースで、下限となる株式数が設定される。一定の株式数を下回る応募しかなかった場合、TOB自体をキャンセルするというものだ。今回もキリン側が設定しており、比率にして31%が下限だった。
これはMoM(マジョリティーオブマイノリティー)を考慮して設定された比率だった。MoMとは少数株主の過半という意味で、大株主がいる場合などに、大株主以外の株主の意向を問う場合に使われる。 ファンケルの場合、キリンの保有比率30%と、自己株式7%を除いた63%の半分という計算で31%(いずれも発行済みの総株式数に占める比率)の下限が設定された。裏を返せば、ファンド側がTOBを阻止したいと考えるなら、31%以上の株主に応募させなければよいことになる。
■対抗TOBを仕掛けるべきだった? そこでファンド側が目をつけたのはインデックスファンドが保有する株式の比率だ。日経平均株価指数や東証TOPIXなどの指数に連動する運用を目指すインデックスファンドは、買収提案に対する賛否にかかわらずTOBには応じないことが多い。 今回のケースでは、インデックスファンドの保有分を考慮すれば、自らの保有分などと合わせて応募しない株式数が31%近くになり、成立の可能性は低いとエムワイアルファ側は考えていたようだ。