能登の火葬場がほぼ使えない…葬祭関係者の知られざる奮闘 増え続ける遺体、でも「最後の尊厳だけは守りたい」
▽「とにかく腐敗を防ぐ」 1週間が経過したころ、塩谷理事長は危機感を漂わせていた。時間の経過とともに遺体は傷んでいく。「最後の尊厳を守れなくなる」 喫緊の課題は遺体の腐敗を防ぐこと。葬祭組合は、遺体を一定期間保存可能にする防腐処置「エンバーミング」を、遺族の了解を得た上で無料で実施すると決めた。 また、スタッフや納棺師を確保すべく石川県外にも応援要請。金沢市などの火葬場は稼働時間を延長し、足りなかった霊きゅう車は、全国霊柩自動車協会県支部に協力を要請した。それでも、災害の犠牲者以外の火葬もある。金沢市に設けた臨時の遺体安置所では16日ごろ、火葬待ちの遺体が24体に上った。 被災した遺族は多く、避難所などに身を寄せている人や、連絡が取れない人も多い。 ▽「寝ているように安らかな顔だね」 金沢市の納棺師、高浦理恵さん(50)が最初に派遣されたのは輪島市の遺体安置所だった。地震から4日目の4日午後、安置所に入ると、遺体が入った白い納棺袋に番号が振られ、ずらっと並んでいた。1列に9人ほど。それが4列もある。
遺体の様子は、普段見る病気で亡くなった人と全く違う。土砂で汚れ、傷のある遺体も少なくなかった。一人一人の体を拭き、ドライシャンプーをした後、髪をクシで整える。男性はひげをそった。遺族が少しでも平常心で最後のお別れができるよう、生前の顔色に近くなるように化粧を施す。 等間隔に並べられた遺体の中で、寄り添うような2人の遺体があった。親子の遺体だ。安置所を担当する警察官が「最後は一緒に」と隣り合うようにしたのだろう。その思いを感じながらこの2人に化粧を施すと、直後に遺族が入ってきた。 泣きながら「かわいくしてもらったね。よかったね」と言っていた。 近くでは、高齢の男性の遺体を囲んだ人々からすすり泣きが聞こえてくる。「助けてあげられなくてごめん。もう少しここで我慢してね。もうすぐ○○も来るよ」 別の遺族がこの男性を見てこう漏らした。 「寝ているような安らかな顔だね」 聞いていた高浦さんはほっとした。「少しは力になれたのかな」