土地追われる農家、最後の夏 時代が切り捨てたものへの惜別描く「太陽と桃の歌」ほか3本 シネマプレビュー 新作映画評
公開中の作品から、映画担当の記者がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。 【場面写真】映画「ありきたりな言葉じゃなくて」より ◇ ■「太陽と桃の歌」 土地を追われる桃農園の一家が迎えた最後の夏を描く。自身の家族も桃農家を営むカルラ・シモン監督は、この作品で第72回ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)を受賞した。 スペイン・カタルーニャ地方。桃栽培で暮らすソレ一家は、夏の収穫期を前に地主から立ち退きを迫られる。農地をつぶして太陽光発電を始めるというのだ。祖父、ロヘリオ(ジュゼップ・アバッド)が先代の地主と交わしたのは口約束だけで対抗もできない。地主は発電の管理の仕事を勧めるが父、キメット(ジョルディ・プジョル・ドルセ)は憤慨して拒絶。先行きを巡り、一家は争いが絶えなくなる。 陽光の下、一家総出で桃を収穫する。生活感のにじむ演技を見せる出演者は全員、現地の素人だという。彼らを長期間一緒に過ごさせ、架空の一家に命を吹き込んだ監督の手腕に驚く。 時代は変わる。大事に育てた桃より楽に稼げる太陽光発電が、スペイン内乱で祖父が地主を救った事実より契約書が重視される。私たちが切り捨ててきたものへの惜別が静かな声で語られる。スペイン・伊合作。 公開中。2時間1分。(耕) ■「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」 福田雄一監督が本領を発揮した作品。東京のアパート住まいのイエスとブッダの日常を淡々と描く人気漫画の映画化。「銀魂」や「今日から俺は!!劇場版」などと異なり、アクションも感動もない。ここまで笑いに徹したのはドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ以来だという。 俳優の自発性に任せるのが演出方針。主演の松山ケンイチと染谷将太を筆頭に、賀来賢人、山田孝之、窪田正孝、藤原竜也、仲野太賀、神木隆之介、ムロツヨシ、佐藤二朗、白石麻衣、川口春奈…ら福田作品の常連と今が旬の若手俳優らが入り乱れて、全力で笑いの表現に取り組む。後に何も残らないが、それでこそ福田作品の真骨頂。 20日から全国公開。1時間33分。(健)