実は現状で旧姓使用はこんなに広がっている…自民党総裁選で話題沸騰の選択的夫婦別姓制度が「必要ない」といえるこれだけの理由
落とし所としての高市案
高市早苗氏は、夫婦同氏を守りながら、旧氏使用もできるようにすることで不便を解消しようという動きに長らく積極的に関わっていて、今から20年以上前に「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」をまとめている。 かつては自民党の中に通称使用もまかりならんという考えもあれば、完全な夫婦別姓を認めるべきだ、これによって戸籍制度を全面的に変えるべきだという考えもあって、幅広い意見が混在したために、高市氏の法律案は未だに日の目を見るには至っていない。だが、20年以上の時間の経過を経ることによって、このあたりが落とし所ではないかというコンセンサスが今は広がっているのではないかと思う。 なお高市早苗氏は総務大臣時代に、総務省管轄のもの1142件について、業界団体に行政通知を出すことにより、旧氏の使用ができるように変えている。314ある国家資格についても、すべて旧氏の使用が可能になっている。 このように旧氏使用は、私達が普通に考えている以上に広がっているが、それがまだ社会的には広く理解されていない状態にある。 金融庁や厚生労働省など、別の役所も同じような対応をするようになれば、夫婦同氏のままでも不便を極力なくすことができ、それが社会的には納得感の高い解決策になるのではないかと思う。
夫婦別氏にもデメリット
ところで、不便を感じる人が少数でもいるなら、その人達が困らないように別氏も認めればいいじゃないかという考えもある。どうしても不便を感じる人に選択肢を与えることの何が悪いのか、全員別氏にしろと言っているわけではないじゃないかという考えだ。 だが、選択肢が生まれるというのは、必ずしも人間にとってメリットにはならないということも理解しておくべきだ。 氏が変わるのが嫌だから、事実婚にとどめて、正式な婚姻をしていない人たちがいるのは、もちろん承知している。 だが、氏が選択できるということになると、夫婦別氏じゃないと結婚しないという人も出てくることになる。カップルの中で、夫婦同氏か夫婦別氏かの対立が生じて、結婚のハードルができることも考えられるのだ。 さらに夫婦別氏を認めた場合に、生まれた子供の氏をどうするかは、夫婦間での争いになる可能性も大いにある。立憲民主党はこのような時に、家庭裁判所がその審判をするとしているのだが、こういう場合に家庭裁判所はどう審判すればいいのか。公正に判定する判断基準は思いつかないだろう。 一人目は夫、二人目は妻なんて決めたら、それこそ男尊女卑ってことになるだろう。家庭裁判所には決める手立てがないのだ。明確な納得のいく判定ができない以上、家庭裁判所がどっちに決めたとしても、反対側からは不満が出ることになるのは避けられない。 現代では「できちゃった婚」もかなり多くなっているが、できちゃった時にお腹の子どもの氏をどうするかでまとまらずに、結果的に中絶を選択するなんてことも起こり得るだろう。それは望ましいことなんだろうか。あるいはよりよい社会制度を実現するためのやむをえざるコストということになるのだろうか。 今までは争いなく決められたことが、選択肢を作ったがゆえに争いの対象となり、それが深刻な家庭不和の原因になることもありうるということも、見ておくべきではないだろうか。