アフリカで最多の大型肉食動物ブチハイエナ、メスの体に秘められた驚きの「成功の鍵」とは
唯一メスの体に膣口が存在せず、「擬ペニス」をもつ哺乳類
ブチハイエナがアフリカの大型肉食動物のなかで最大の個体数を誇れるのは、メスが主導権を握り、その序列がすべての母系制社会を形成しているからだ。ブチハイエナの社会には厳しい上下関係があり、母親の地位を子がそのまま受け継ぐ。写真家のジェン・ガイトンが夜間に赤外線カメラで撮った光景からは、そんな興味深い社会構造の一端をのぞくことができる。 ギャラリー:ハイエナの魅力的な素顔、可愛すぎる子どもたちも ケニア南西部に広がるマサイマラ国立保護区で、ブチハイエナの子たちが湿った草の上を転げ回って遊んでいる。近くに寝そべっている母親は、子たちより体の大きい1歳のハイエナが遊びの輪に入らないよう、時々身を起こして牽制している。そのハイエナが再び近づこうとすると、群れの上位に位置する母親の合図に気づいた子の一頭が、小さな体で精いっぱい、威嚇のポーズをとった。滑稽な行動だが、どちらも自分の地位を心得ていて、体は大きいが序列は低い1歳のハイエナは足を止め、頭を下げてすごすごと去っていく。 ずっと以前からはっきりわかっていることが一つある。米ミシガン州立大学の「マラ・ハイエナ・プロジェクト」の創始者である35歳の研究者、ケイ・ホールカンプによれば、それは最上位のメスが「ハイエナの社会の屋台骨」だということだ。 メスの優位は生理学的な要因によってももたらされる。序列の上位に位置するメスの子は、メスであれオスであれ、胎内にいるときにテストステロンなどの性ホルモンに大量にさらされ、攻撃性が高まると考えられる。 加えて、解剖学的な要因も働いている。 哺乳類のなかでは唯一、ブチハイエナのメスの体には膣口が存在しない。股間にはオスのペニスとそっくりな、肥大した陰核がぶら下がっている。交尾のときには、メスはこの「擬ペニス」を腹部に引っ込めて一時的に膣を作り、オスがペニスを挿入できるようにするのだ。そのため、メスが選んだオスでなければ、交尾は成立しない。 ブチハイエナの母親は、アフリカのほかのどの捕食動物よりも長く、何年にもわたって子の世話をする。この期間中に、子の頭蓋骨が発達するのだが、頭蓋骨が未発達の間は、大型の獲物を追って仕留めることはできない。メスがオス以上に攻撃的になった理由の一つには、子を養い守る期間が長いためではないかと、ホールカンプは推測している。ちなみにオスは子育てにはまったく関与しない。 性別にかかわらず、子は母親の地位を受け継ぐが、新しいきょうだいが生まれるたびにその地位は下がっていく。発信器による追跡では、ほとんどのオスは3歳ほどになると群れから離れ、ほかの群れと行動をともにし始めることもわかった。それにより、繁殖の機会が増え、遺伝子を後世に残すことができるのだ。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版3月号特集「サバンナの女王、ブチハイエナ」より抜粋。
文=クリスティン・デラモア(英語版編集部)