ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
「練習から何をチームのためにできるかを表現していきたい」
コロナ禍で選手インタビューができない時期には、試合後の監督記者会見で選手のパフォーマンスについて質問をするのが定例となっていたわけだが、マテラッツォ監督は筆者がシュツットガルトの試合取材で訪れた際に伊藤のことを質問すると、いつも丁寧に答えてくれた。その中でも特に印象的だったコメントがある。 「ヒロキは素晴らしい選手で、素晴らしい人間でもある。今日の試合でミスがあったが、試合の後すぐに謝ってくれた。素晴らしいことだ。彼の性格を表している。いつでも責任感をもってプレーしている。左足から繰り出されるダイアゴナルなパス、DFライン裏へのロングフィードのパスはチームの武器だ。我々にとってとても価値のある選手なんだ」 では、伊藤本人は自身のプレーやクラブ内における立ち位置についてどのように受け止めているのだろう。2シーズン目(2022-23シーズン)の9月に行われたシャルケ戦後に次のように話してくれた。 「1年ブンデスリーガでやって、よりチームを背負う立場というか、責任感が増してくる。どう自分たちがピッチ上で感じたものを表現していくかが大事。若いチームですし、責任感をもってもっともっとやっていきたいなと思います。ポジション変更もあるかもしれないし、いつ自分がスタメンから外されるかもわからない。練習から何をチームのためにできるかというのを表現してやっていきたいです。チームに勝ちを持ってこれる選手になりたいです」 2シーズン目は1部16位に終わり、2部3位のハンブルガーSVとの入れ替え戦に臨むことになった。接戦が予想されたが、終わってみればホーム&アウェイの2戦でシュツットガルトは計6-1で大勝。2部70得点のハンブルクの攻撃を伊藤ら守備陣が見事な対応で防いで見せた。
伊藤洋輝が新シーズンどんなプレーを見せてくれるのか?
伊藤にとってさらなる飛躍の転機となったのが2023-24シーズンだ。セバスティアン・ヘーネス監督のもと、見違えるようにダイナミックで連動性豊かなサッカーを体現し続けたシュツットガルトで、伊藤はチームの土台を支える存在として重要な役割を担っていた。本人もこのように手ごたえを口にしていた。 「チームとして前からボールを奪いにいくぶん、後ろのDFがどれだけ個で守れるかが重要になってくる。そこで負けないことと、ゲームの中でどうチームとして反応していくかというところは、大事になってくると思う。崩れる前に自分たちが気づいてやっていければなと思います。 攻撃だと横パス入れてから縦に入れるっていうのが必要になる。自分がまず受けにいってサイドチェンジしたり、相手の食いつきが甘いんだったら、1回下げてから相手をもっと食いつかせて、前線の選手に当てるみたいな狙いでプレーしています。タイミングも精度も距離感も良くなってきていると思うので、継続してやっていきたいですね」 1対1への対応力とプレーにおける柔軟性に大きな成長の跡を残す。シュツットガルトではセンターバックとしてだけではなく、サイドバックやウイングバックとしても状況に応じてハイレベルなプレーでチームに貢献。オーバーラップ時のプレーバリエーションは幅広く、ペナルティエリア付近でパスを受けて起点を作ったり、シュートやクロスに持ち込む精度も高くなってきている。 バイエルンはオーストリア代表DFダビド・アラバがレアル・マドリードへ移籍して以来、左利きのサイドバックとセンターバックが少なく、ビルドアップからパスの出口作りに苦しんでいたという事実がある。左サイドバックのアルフォンソ・デイヴィスも全盛期程の迫力あるプレーを見せているわけではなく、むしろ安定感の欠如を批判されることが少なくない。 伊藤のプレー評として、シュツットガルター紙に「ボールを持った時の冷静さ、明確なプレービジョンを持ち、確実なパス能力でゲームを作る。印象的なプレーを残したのは今回が最初ではない」と称賛されたことがあるが、このようなプレーぶりがまさにバイエルンでも必要とされる要素なのは間違いない。 ドイツサッカーの盟主バイエルンで伊藤洋輝がどんなプレーを見せてくれるのか。新シーズンに向けて大きな楽しみの一つだ。 <了>
文=中野吉之伴