茂木健一郎「日本語以外の言語を話すとき、脳はどうなっているの?」相談者の質問に脳科学的視点で回答
脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。 5月25日(土)の配信では「英語学習」に関する質問に答えました。
<リスナーからの相談>
僕は今、英語を勉強中です。茂木さんは英語を話されるとき、頭のなかでは日本語で考えていますか? それとも、英語で考えを整理していますか? 日本語以外の言語を話すときの脳はどうなっているのか知りたいです。
<茂木の回答>
茂木:脳科学的な事実を言うと、言語野のなかには母語、我々の場合でいうと日本語を処理する回路と、英語のような第2言語を処理する回路があります。そして、英語が得意になればなるほど(2つの回路が)共通してくることがわかっています。 苦手なときは日本語と英語の回路は別々にやっているのですが、得意になってくると日本語と英語の区別がほぼなくなり、同じように処理されていきます。(最終的には)まさに英語が母語のように使えるようになってくるのですね。ここに、重要なポイントがあります。 まず日本語で考えてから英語を話すとなると、最終的には英語が上達しないです。相談者さんのおっしゃるように、英語は英語で考えたほうがいいのですが、いろんな経験をしていますし、(母語のほうが)知識も多いです。たとえば、中学生の英語学習だと、日本語で解説を聞きながら学びますよね。実は、あれって決して悪いことではないのですよ。 面白いのが、映画の字幕。英語を勉強中の相談者さんとしては、字幕はあったほうがいいですよね? でも、英語を勉強していると(意識が)どうしても日本語字幕のほうにいってしまって、邪魔だと感じるときがあるのです。一方で、脳の回路として日本語字幕は英語を学ぶうえでの助けになることは事実です。 さらに英語を学んでいくと、英語のほうが先に入ってきて、日本語字幕があっても気にならなくなっていきます。例え話ですが、自転車に乗るときって最初は補助輪をつけますが、運転がうまくなっていくと補助輪がいらなくなりますよね。英語を学ぶ際の日本語は、補助輪のようなものだと思いますので、補助輪があったほうが英語の学習が進むことはあります。 一部の英語学習では、日本語を排除する、英語だけで学ぶことを推奨される方がいらっしゃるのですが、僕の経験、そして脳科学の面からも、必ずしもそうでなくてもいいのではないかと思っています。肝心なのは、たくさん英語と接することです。そのときに日本語字幕や日本語の解説があっても構いません。 毎日、英語を浴びるように聞いて半年ぐらい経つと、ある日突然英語がわかるようになります。それまでのあいだ、脳の回路は少しずつ変わっていきますので、まずは半年ほど頑張っていただけたらなと思います。 日本語である母語を助けにして英語を学び、いつかは日本語という補助輪が気にならなくなるぐらい英語が身に付いたら素敵だなと思います。 (「茂木健一郎のポジティブ脳教室」2024年5月25日(土)配信より)