【アーセナル分析コラム】なぜ左サイドが機能せず?この課題を解決できる救世主の存在とは
プレミアリーグ第11節、チェルシー対アーセナルが現地時間10日に行われ、1-1のドローに終わった。怪我からの復帰後初先発となったマルティン・ウーデゴールが右サイドを活性化させた一方で、特に前半の左サイドはほぼ機能していなかった。その理由と、この課題を解決することができる男の存在とは。(文:安洋一郎) 【動画】チェルシー対アーセナル ハイライト
●アーセナルとチェルシーのダービーはドローに 両チームにとって、この勝ち点「1」はどのような意味を持つのだろうか。チェルシー対アーセナルのビッグマッチは1-1のドローに終わった。 今夏にユーロ(欧州選手権)やコパ・アメリカが開催されたこともあって、フィジカル的な負担が他リーグと比較をしても大きいプレミアリーグのクラブは怪我人続出に悩まされている。 そうした中で前節を4位と5位で終えていた両チームは、シーズン後の最終順位も意識してか、満身創痍の選手たちも先発に抜擢。チェルシーは前節マンチェスター・ユナイテッド戦で負傷していたコール・パーマー、アーセナルは足の指を骨折しているデクラン・ライスをスタメン起用し、ビッグマッチでの勝利を目指した。 同じロンドンに本拠地を構えるダービーで、ひときわ目立つ活躍をみせたのが、怪我からの復帰後では初先発となったアーセナルのマルティン・ウーデゴールである。 ガブリエウ・マルティネッリの得点をお膳立てした60分のシーンを筆頭に、保持時は彼の離脱中に欠けていた右サイドでの創造性、被保持はチームメイトに指示しながらのハイプレスで調子を落としているチームを牽引する堂々たる活躍を披露した。 彼の復活で活性化した右サイドとは対照的に、特に前半は左サイドの機能不全が目立つ試合展開となった。なぜ、この試合でアーセナルの左サイドはあまり機能しなかったのだろうか。 ●あまりに多いポジションチェンジは“諸刃の剣” 2022/23シーズンにオレクサンドル・ジンチェンコが加入して以降、アーセナルの左サイドバック(SB)には、保持時に初期位置から中盤の一角にポジションを移してビルドアップをサポートする偽SBの役割が求められている。 昨季からはよりポジションの流動性が生まれ、状況に応じては左SBの選手が左インサイドハーフや左WGの選手たちとポジションを入れ替えて攻撃参加するシーンが見られている。 この戦術を取り入れている理由は、意図的に相手のマークにズレを生み出したいからだろう。 状況に応じて選手のポジションが流動的になり、各々が必要なポジションを取ることができれば、相手チームの選手には繊細な判断が求められる機会が増え、対策がしづらい状況となって守りにくくなる。 しかし、こうしたポジションの循環は“諸刃の剣“な側面もある。仮に各々が必要な立ち位置に立つことができなかった場合は、自分たちの首を絞めることになってしまうのだ。 今節チェルシー戦は完全に後者だった。 ●チェルシー戦でアーセナルの左サイドが停滞した理由 この試合の前半でよく見られた現象が、最終ラインと前線を繋ぐリンクマンの役割を担う中盤の選手がいない「中盤の空洞化」である。 この事象が起きてしまった理由の一つが、左SBで先発出場したユリエン・ティンバーと左インサイドハーフで出場したライスの補完性の悪さだ。 両者ともに自分主導の動きが多く、高い位置でボールを受けたがる傾向が強いティンバーと、最終ラインの選手がボールを持っている際に相手のプレス隊よりも手前の低い位置に降りてボールを受けたがる傾向強いライスの相性は良いと言えないだろう。 これをさらに助長してしまったのが、アンカーで先発出場していたトーマス・パーティのポジショニングで、このガーナ代表MFも[4-4-2]で構える相手のツートップよりも手前に降りてボールに触れる機会が多かった。 42分のシーンは、アーセナルのビルドアップが上手くいっていないことを象徴している。この場面ではトーマスとライスも最終ラインに降りてきており、一時的に5バックを形成してビルドアップを行っていた。 2人の中盤の選手が最終ラインに降りたことで、相手のツートップとボランチの間に立つ選手はティンバーしかおらず、完全に最終ラインと前線が分断されていた。 直後にガブリエウ・マガリャンイスの指示でライスは一列前に出たが、このような後ろに重たい状況に陥ると「低い位置にWGが下りてくる形からの外循環」、もしくは「相手の最終ラインの裏を目掛けて蹴る」の2つの選択肢しかない。 前半のアーセナルは、結果的にトーマスが裏へとロングフィードを送って簡単に相手チームにボールを回収されたこの場面を筆頭に、中盤を経由しての攻撃が極端に少なかった。 ●アーセナルの左サイドの機能不全を解決する男 ティンバーとライスの補完性の悪さから生じる左サイドの停滞はこの試合に限った話ではないが、この課題を解決する存在になりそうなのが、今夏に加入してから徐々にフィットしつつあるミケル・メリーノである。 このスペイン代表MFはライスに代わって出場した71分以降の時間帯で、中盤のサポート役として最高レベルの動きをみせた。 前提として、ピッチに立った時点で両チームに得点が生まれており、前半と比較をするとオープンな展開だったこともあるが、常に相手とチームメイトの状況を把握しながらのポジションを取ることができていたように思う。 実際にメリーノはライスと比較すると、持ち場である左サイドに固執することなく、状況によっては右サイドにも顔を出して数的優位を作り出し、自らに引きつけてからのショートパスで相手のプレスを反転させることに貢献。相手から上手くボールを隠しながら身体の狭いエリアでも失わない技術の高さも相まって、リンクマンとして機能していた。 87分のシーンのように4人の相手選手に囲まれた状況であってもフリーのレアンドロ・トロサールを見つける視野の広さも兼ね備えており、彼がピッチに入ってから明らかにアーセナルは保持で安定した。 思い返すと、ポジションチェンジが連鎖していた中でもアーセナルの左サイドが機能していた昨季の試合では、左SBに冨安健洋が起用されていた。彼も周りの選手の状況を見ながら柔軟にポジションを取り直すことができる選手で、“気が利く“という意味ではメリーノも同じ特長を持つ。 現時点でライス、ウーデゴール、メリーノの3人は同時にピッチに立ったことはないが、スペイン代表MFの気が利く姿を見る限りは、このセットがアーセナルの中盤の最適解になる可能性がある。仮にこれがフィットするとなれば、アーセナルの左サイドの停滞は大きく軽減されることになるだろう。 (文:安洋一郎)
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