還暦で現役復帰したお宝電車
【汐留鉄道倶楽部】夏に書いた前回のコラムで、筆者はある電車の運用のされ方が“復活”したという話を紹介した。その後ほんの数カ月、それを超えるような驚くべき復活劇が起きた。10年以上前に定期運用を離れて“引退”しながらスクラップされずに動態保存車となり、たまにイベント列車などに使われてきた電車が、還暦を迎えた11月から普通列車や急行列車として定期運行されるようになったのだ。 【写真】予想外に“復活”した列車2選
あり得ないような異例の“現役復帰”に、鉄道ファンはお祭り状態になっている。この電車は、東武を代表する通勤形「8000型」の8111編成だ。所有する東武博物館の公式サイトによると、6両編成のうち4両が1963年11月、残りの2両は1972年1月に製造された。定期運用から外された後、2012年8月から東武博物館が動態保存している。 8111編成とはどんな車両なのだろうか。8000型は1963年10月から1983年3月にかけて計712両が製造された。私鉄車両としては最多を誇る大所帯だ。約20年にわたって製造されたということは、それほど優秀な設計だったことを物語っている。 デザインに目を向けると、先頭車両は「東武顔」と呼ばれる個性的なマスクをしている。東武顔は8000型だけでなく、それ以前に製造された旧性能電車の車体を交換した際にも採用され、見かけが8000型の電車も大量に生まれた。鉄道ファンではない乗客も「東武といえばこの電車」と思うような存在になった。
そんな8000型も時間の経過とともに古めかしくなり、東武顔を新しいデザインに変更するなどの工事を施されていった。いつの間にか8111編成は、製造当時の東武顔を持つ唯一無二のお宝電車になっていた。 動態保存されたおかげで、機会が少ないながらも本線上を走るようになったものの、新型コロナウイルスの感染拡大に阻まれてしまった。8111編成のイベント列車は、2019年11月にピカピカの車体で運転されたが、コロナ禍の2020年4月には中止に追い込まれている。 どうやらその後は運転されなくなったようで、埼玉県久喜市にある南栗橋の車両基地にひっそりとたたずんでいた。ある日、基地の外から見たところ、雨ざらし状態が長く続いたためか、車体は色あせ、さびが浮き上がっているのが確認できた。赤地に白抜きの「回送」を表示した方向幕は、すっかり日焼けしていた。まるで廃車体のように思えて「このまま解体されてしまうのか」と不安になった。