少年はなぜ大麻の売人になったのか 試しに吸って沼にはまった 「人を不幸にしたと知った」
薄曇りの空に時折、晴れ間がのぞく。1月26日、沖縄県糸満市にある沖縄少年院で二十歳を祝う式典が開かれていた。院内で20歳の門出を迎えたのは6人。そのうちの一人、剛(仮名)は院生の階級で「1級生」に当たる。3段階のうち、最も出院が近い。 (写真)売人から送られてきた大麻リキッドや乾燥大麻の写真。それぞれ1~5グラム単位で販売しているという 記者が案内された学習スペースに現れた剛は「院内では院生同士のコミュニケーションが制限されるんです。授業中も教官の指示がないと話せなくてきつい。今は面会で母が来てくれるのがうれしいです」とはにかんだ。19歳の時に逮捕され、少年審判で少年院送致になった。罪名は大麻取締法違反。乾燥大麻の売人だった。 2023年は少年犯罪が目まぐるしく起こった。沖縄県警少年課によると、少年の刑法犯摘発・補導人数は740人(速報値)で過去5年で最多だった。そのうち強盗など凶悪事件は11人と過去10年で最も多かった。「少年たちはなぜ犯罪に手を染めてしまったのか」。疑問の答えを直接聞きたいと思い、沖縄少年院に取材を申し込むと、院生3人がインタビューに応じてくれた。彼らのこれまでの人生の歩みや言葉から背景を探った。全5回の連載1回目は大麻の売人だった剛。2回目は3月20日に配信。(社会部・比嘉海人)=敬称略
突発的に家出 自暴自棄に
「少年院で1年無駄にしたという後悔もあるけど、入って良かったと思います。薬物や悪い連中との関係を切るきっかけになったし、家族とも仲を戻せたから」 剛は沖縄本島中部で生まれた。長男で両親と複数のきょうだいと暮らしていた。小中学生の頃の家族仲は「普通」で、家族でよくショッピングセンターのゲームセンターで遊んだ記憶がある。 中学に上がると、非行をする友人たちとつるむようになった。 「自分も友人も『隠れイキリ』みたいな感じ。こそこそとたばこや酒をやっていた。悪いという気持ちはなかった」 振り返ってみると、道が大きく外れ始めたのは高校生の時。高校に上がる頃には、非行仲間とずっと一緒にいた。「判断基準も全て友達寄りになっていたと思う」 門限など家庭内の厳しいルールを巡って、両親と頻繁にけんかをし、口をきかなくなった。「友人が集まり始める午後8時がわが家の門限だった。周囲と自分の親の差を感じて嫌になった」。高校を卒業すると、親族の車で突発的に家出した。専門学校に進学したが家には帰らず、4カ月ほど車中泊をして過ごした。 どんどん自暴自棄になった。ある日、共通の趣味を持つ友人が、ジョイントと呼ばれる紙巻きたばこ状にした乾燥大麻を吸っていた。試しに吸うと、 すぐに効果が実感できずに吸い続けて嘔吐(おうと)してしまった。 「オーバードーズ(過剰摂取)のような状態になった。だけど耐性が付いたと感じた」 友人に教えてもらった年上の売人と交流サイト(SNS)でやりとりし、0・25グラムのジョイントを購入した。さらにもう一回。気付けば沼にはまり、大麻が手放せなくなっていた。