もうすぐ10周年。アップルウォッチをデザインしたのは「5億円チェア」の天才デザイナーだった
一番安いモデルでも3万円以上するアップルウォッチ(Apple Watch)。 限定された用途や価格に躊躇する人も多いだろう。 【全画像をみる】もうすぐ10周年。アップルウォッチをデザインしたのは「5億円チェア」の天才デザイナーだった だが、このアップルウォッチをデザインしたのが、手がけたチェアが5億円以上で取引されたデザイナー、マーク・ニューソンの作品だと分かれば少し見方が違ってくるのではないだろうか。
「歴史に名を残すデザイナー」の一人
マーク・ニューソンは、オーストラリア出身のデザイナーで「歴史に名を残すデザイナー」の一人と言ってもいいだろう。 彼のデザインした「Lockheed Lounge」というチェアは2015年に370万ドル(約5億6000万円)という驚くべき価格で落札された。 ニューソンのデザインは70年代を思わせるレトロなスタイルにもかかわらず、同時に非常に近未来的である点が世界で高い評価を受けている。 日本では2004年にauから発売されたtalbyという携帯電話がニューソンのデザインだ。見れば、「懐かしい!」と感じる方も多いだろう。 他にもニューソンは東京の家具メーカー・IDEEでデザイナーとして勤務したり、味の素の瓶をデザインしていたりと、日本との関わりも多いデザイナーだ。
アップルウォッチの原型?
そんな、ニューソンがシドニー芸術大学を卒業してすぐ、1994年に設立したのがIkepod(アイクポッド)という時計ブランドだ。 まさにマークニューソン節全開という風貌のIkepodは当時の時計業界に衝撃をもたらした。 バンド部分はウレタンのゴムベルトでできており、ストラップごと時計本体にねじ込まれている独自の構造だ。この特徴はまさにアップルウォッチのスポーツバンドそのもの。よく見ると、ベゼルやボタンのデザインの処理もアップルウォッチと似ている。 アップルウォッチの原型は90年代に発表された、このIkepodにあると言っていいだろう。
アップルとニューソンのコラボレーション
ところでなぜニューソンがアップルの製品の開発に携わるようになったのだろうか。 Financial Timesによると、著名なアップルの元リードデザイナー、ジョナサン・アイヴはアップルウォッチのデザイン開発に苦戦していた。そこでアイブがニューソンに助けを求め、2人が力を合わせることで、現在のようなデザインにたどり着いたという。 ではなぜ、アイブはニューソンを頼ったのか? 私の推測だが、アップルウォッチは単なるデバイスではなく「身につけるアイテム」としてファッション性の観点も重要だったからではないだろうか。 iMacやiPodなど長くアップル製品をデザインしてきたアイブはプロダクトデザインにおいて世界最高のデザインスキルを持つデザイナーだったが、ファッションの分野では十分な知見がなかった。そこで、プロダクトデザインとファッションデザインの二つの分野に秀でていて、かつアップルのデザインと溶け込む先進性を表現できるデザイナーとなると、マークニューソン以外にいなかったのだろう。 ちなみに2人は2019年から共同でLoveFromというデザイン会社を設立している。 初代アップルウォッチが世に登場したのは2015年4月と、もうすぐ10周年だ。スマートウォッチはいかにもガジェットという見た目のものが多かった中、アップルウォッチが今なおウェアラブルデバイスの代名詞として愛され続けているのは、ニューソンがデザインしたIkepodの「高級感」が受け継がれたからだろう。
山中将司