心からの「ありがとう」に涙 メンタル不調で退職した若者が「働きがい」を発見した出来事とは
上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか? 実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。 (画像)あなたにとっての「働きがい」とは 今回は、失意の底から立ち直ろうとした若者が、ある「出来事」から働きがいを見出したエピソードです。 ■リハビリで始めた仕事は... <「この資料じゃ使えない!」「仕事の優先順位がわかってない!」 心ない上司の言葉に新入社員が失意の末に>の続きです。 Aさんは、職場を退職し療養に専念し始めると、半年ほどでだいぶ体調が回復してきました。 そこで、社会復帰に向けたリハビリを兼ねて、体調に合わせて時間の融通が利きやすい、短期派遣の仕事にチャレンジすることにしました。その仕事とは、街頭でのチラシ入りティッシュ配りでした。 人通りの多い駅前に立って、道行く人にポケット・ティッシュを手渡す仕事です。 その初日。始める前は簡単な仕事だと考えていたものの、実際にはなかなか思うようにはいきません。 「よろしくお願いします」と声をかけながら手渡そうとしても、誰も受け取ってくれないのです。1時間も経つうちに、まるで自分の存在が無視されているように感じられて、だんだんしんどくなってきました。 少し立ち位置を変えてみたり、声掛けと渡すタイミングを見計らったりと工夫をしますが、やはりうまくいきません。 次第に気持ちが落ち込んできて、うつむき加減になりました。そうなると、ますます悪循環。通行人が皆、遠回りに自分を避けていくようです。 「(やっぱり、自分はこんな簡単な仕事でも出来ないのかな...)」(Aさん)
満面の笑みで伝えられた「どうもありがとう!」
Aさんが、肩の力を落とし、あきらめかけた時...目の前に一人の初老の男性が立っていることに気づきました。 Aさんが、顔を上げると男性と目が合いました。 すると、男性はニッコリ笑って、Aさんに声をかけたのです。 「そのティッシュ、一つもらえませんか?」(男性) 「あっ、はい...。どうぞ...」(Aさん) Aさんが思わずティッシュを1つ差し出すと、それを受け取った男性は、さらに満面の笑みを浮かべて言いました。 「どうもありがとう! とても助かるよ」 そう丁寧にお礼を言うと、足早に歩き去って行きました。 Aさんは、少し驚いたまま、しばらく男性の後ろ姿を見送っていましたが、急に涙が込み上げてきたのです。自分でもその理由がよく分かりませんでした。 自分は、なぜ涙が込み上げるほど、感情が揺さぶられたのか。またうつむき加減になりながら、気持ちの整理をしていると、またさっきの初老の男性が戻ってきて、目の前に。 「悪いんだけど、もう1つティッシュもらえるかな。今日は花粉が沢山とんでて、くしゃみがとまらなくてね。なのに、家から持ってくるの忘れちゃって(笑)」 「は、はい。どうぞ、お持ちください」とAさん。Aさんが再度ティッシュを手渡すと、男性は茶目っ気のある笑顔で、こう応えてくれました。 「本当にありがとう。助かったよ。このあとも頑張ってね!」 さっそうと去っていく男性の背中を見ながら、Aさんはこれまで味わったことのない感動に、もはや嗚咽を堪えられず、涙を流し続けたのです。 ひとしきり涙を流したあと、気持ちが整理でき、Aさんは自分の内面に起こったことに気づきました。 それは、自分が人の役に立ち、心からの「ありがとう」の言葉をかけられたことが衝撃的で、感極まったのです。大げさかもしれないけれど、働く喜びを感じられたのです。 思えば約1年前に新卒で働き始めた職場では、「ありがとう」という言葉は一度も聞いたことがなかったので、初めて働きがいを経験できたのでした。