「一泊1万円時代の新戦略」ビジネスホテルチェーン最前線《「おトクな宿泊術」も紹介!》
バブル崩壊以来の変革期
アクセスがよく、安く宿泊できるビジネスホテルは、出張のお供として長らく重宝されてきた。 【変革期へ…】ビジネスホテル「最新勢力図」はコチラ 経済成長に伴い出張が増加した’80年代、ビジネスホテルは第一次黄金期を迎える。当時は東急イン、ホテルサンルート、ワシントンホテルの3社が「ビジネスホテル御三家」と呼ばれていた。 「この3社は宴会場などの設備も備え、当時の高級ホテルに倣(なら)ったサービスを展開しました。しかし、バブル崩壊とともに出張・宴会需要が激減。一泊5000円ほどで泊まれる激安路線のホテルが支持されるようになったのです。ここで台頭したのがアパホテル、東横INN、ルートインの3社で、『新御三家』と呼ばれるようになりました」(流通ジャーナリストの長浜淳之介氏) 新御三家はいずれもバブル景気が始まる直前の’85年前後に創業している。豪華なサービスがもてはやされた時代に流されることなく低コスト、低料金を旗印に経営していたのも共通点だ。地価が暴落したタイミングで全国進出を果たし、令和の今に至るまで、業界のリーダーとして君臨している。だが、コロナ禍を経てインバウンド需要が急増したいま、業界は再びバブル崩壊以来の変革期を迎えている。 「かつて一泊5000~6000円だったシングルルームが、どのチェーンでも1万円以上と強気の値段設定になりました。変動価格制も導入され、近隣でコンサートなどのイベントがあった場合、一泊3万円以上することも珍しくありません」(経済紙記者) 物価高を背景に安さで業界を牽引してきた各社も、新たな付加価値をアピールしなければ生き残れない局面に突入しているのだ。大手チェーンが鎬(しのぎ)を削る、ビジネスホテル界の最新事情をリポートしよう――。 アパホテルは売上高、棟数ともに国内最大チェーンとしての立場を確立。’06年にいち早く変動価格制を導入したほか、コロナ禍でも積極的な拡大路線を推進してきた。マーケットアドバイザーの天野秀夫氏が、アパの戦略を解説する。 「業績の悪くなった電鉄系のホテルを買収して居抜きで使い、建設費と開業までかかる時間を大幅にカットすることに成功しています。コロナ禍中に買収した『京急EXイン』や『西鉄イン心斎橋』は、今やアパの主力ホテルとなっている。創業家をトップとした、スピード感ある経営が強みです」 細部までコスト意識が行き届いているのも強みだ。前出の長浜氏が続ける。 「カーテンに遮熱素材を使って冷暖房効果を高め、浴槽を独特の卵型にして20%の節水を実現しています。黒とオレンジの特徴的な外装で視認性を高め、コストをかけずPRにつなげている」 ◆繁栄のカギは若年層 新御三家で売り上げ規模が三番手の東横INNは、イメージ変革の途中だ。年間360日のホテルステイ生活を続ける、ホテル評論家の瀧澤信秋氏が言う。 「コアリピーターに中高年が多いのですが、利用者がいずれ高齢化していくことへの対策を考えているようで、ロゴ、客室のリニューアルなど若者にも訴求する新しいイメージ作りを進めている。ビジネス、レジャーの起点となる『基地ホテル』という新たな呼び名を提唱しています」 イメチェンを進める一方で、業界のリーダーを目指すためにサービスは創業当時の姿勢に回帰している。 「料金変動の幅は他社に比べて控えめ。創業時から『駅前旅館の鉄筋版』を標榜しており、朝食はご当地グルメを提供。しかも無料です。客室の浴槽も日本人の好みに合わせ、ゆったりと深く作られています」(前出・長浜氏) 郊外を中心に発展してきたのがルートインだ。ロードサイドに強く、駐車場が充実しているので、車での地方出張の際の大きな味方となる。前出の経済紙記者が分析する。 「不動産価格が安い高速道路のインターチェンジ付近などに開業することで、宿泊費が安く抑えられる。眺めのいい大浴場を備えているケースが多いですが、これは宿泊客の満足度を高めるほか、部屋に浴槽を置かなくていいというメリットもあります。都心では主要な繁華街を外して展開しているのも、戦略の一つです」 新御三家を脅かす勢力も登場している。健康志向を前面に出して、3社に割って入ろうとしているのがスーパーホテルだ。オーガニック野菜を使用した無料朝食のほか、「健康イオン水」の導入など、独自の取り組みを行っている。 また大阪府立大学の清水教永名誉教授と共同で「ぐっすり研究所」を設立。宿泊客の睡眠の質を高めることに注力しているのが最大の特徴だ。 「枕は8つのタイプから選べ、窓、ドア、壁は防音設計。冷蔵庫も音が静かなタイプを導入するなど、快適に眠れるような環境を整えています」(前出・長浜氏) スーパーホテルのオンラインストアでは、8種類の枕が購入できる。宿泊の際に気に入ったものがあれば、自宅でも同じ寝心地を体感することが可能だ。 ◆予約にも「コツ」がある 多少値が張っても、満足感の高いサービスを優先させるドーミーインは、ここまで紹介した4社とは一線を画す「進化系ビジネスホテル」として位置づけられている。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏が語る。 「有料ですが、朝食は手作りでその土地の名物が入っているなど、チェーンの中で充実度は飛び抜けています。温泉にサウナを備え付けた大浴場も、ビジホ界最強と言えるでしょう」 コーヒーやアイスキャンディー、夜食用の夜鳴きそばはすべて無料。お得感を求める層への気配りも忘れていない。観光ニーズに応えるべく、広めの客室や和洋室を備えた高級路線の「プレミアム」も好調で、一棟当たりの利益率が高くなっている。 かつてはビジネスホテルに空きがなかった時の″非常手段″としての位置づけだったカプセルホテルも進化している。 いち早く「豪華カプセルホテル」を展開した安心お宿は、全店舗で無料のアルコールや人工温泉を提供している。ナインアワーズは一部店舗でカプセルベッド内のセンサー等で睡眠の質や呼吸状態を測定でき、疾病リスクがある場合は病院の紹介まで行うサービスを導入して、人気を得ている。 ここまで紹介してきたビジネスホテルに、1円でも安く泊まるにはどうすればいいのか。前出の鳥海氏が、お得な予約方法を伝授する。 「実は自社サイトでの予約が一番安いケースがほとんどです。便利さから旅行予約サイトを使う人も多いですが、予約サイトではホテルが支払う手数料込みの値段となっていることが多く、割高です」 もし予約サイトと自社サイトで料金があまり変わらないようであれば、予約サイトのセールやキャンペーンがないか確認するといいだろう。鳥海氏が続ける。 「楽天トラベルは5%ポイント還元、一休は20%還元セールを度々行うため、多少の料金差であれば予約サイト経由がお得なこともあります」 深夜帯からの宿泊が格安となるサービスも覚えておきたい。東横INNでは「ミッドナイトタイムサービス」という、23時以降に当日の空き室があれば最大51%オフで宿泊できるプランを提供している。23時以降にしか予約できないが、日帰りのはずが急に一泊しなければいけなくなった時などに便利だ。 各ホテルのポイントを獲得できる会員プログラムに登録することも、宿泊料金を抑えるためには重要だ。前出の瀧澤氏が解説する。 「アパホテルは宿泊費の4~15%がポイント還元されます。1ポイント1円で精算に使えるため、還元率は非常に高くなっている。また、入会費が1500円かかりますが、東横INNは会員になれば宿泊費は常に5%オフ。10泊するとシングルルームの無料宿泊券がもらえます。これを使わない手はありません」 ビジネスホテルチェーンは価格の上昇とともに、サービスも手厚く進化している。それぞれの強みを理解すれば、宿泊の満足感も一段と高まるに違いない。
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