高齢男性に多い排尿の悩み…前立腺肥大症に使われるクスリ【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】
【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】 高齢になると、排尿に関する悩みを抱える人が多いです。今回は、その中でも特に男性の排尿障害の原因のひとつである「前立腺肥大症」とその治療に用いられるクスリについてお話しします。 「餅」で尿意ストップ! 映画の途中にトイレで席を立ちたくないなら 前立腺は男性のみが持つ臓器で、精子を保護する前立腺液を分泌しています。人の生殖行動にとって必要な臓器のひとつであるわけですが、加齢に伴う生殖能力の低下によってその役割は徐々に少なくなっていきます。 役割が低下すると、徐々に前立腺は肥大か萎縮していきます。昔は萎縮する男性の方が多かったそうですが、現在ではほとんどの男性で肥大するとされていて、その原因のひとつとして食生活の欧米化が関与しているといわれています。 前立腺は膀胱のすぐ下にあり、そこの尿道を取り囲むように位置しています。そのため、前立腺肥大が起こると尿道を圧迫するようになり、排尿困難の原因になるのです。前立腺肥大症による排尿困難の症状は人それぞれですが、多くは「1回ですっきり出せず、何度もトイレに行かなければならない」という感じです。 この前立腺肥大症の治療ですが、まず日常生活に不便がなければ特に治療をすることなく経過観察で問題ありません。治療が必要な場合には、手術などの外科的治療とクスリによる治療があり、ここでは後者について紹介します。 前立腺肥大症に用いられるクスリには、大きく分けて3種類の効き方があります。まずは①「α1受容体遮断薬」です。 α1受容体は前立腺や膀胱の出口のところの筋肉(平滑筋)に存在しています。そこにアドレナリンが作用すると平滑筋が収縮して尿が出にくくなってしまいます。α1受容体遮断薬はその名の通り、α1受容体にひっつくことでアドレナリンが受容体にひっつくのを邪魔するクスリです。それによって平滑筋が弛緩して、排尿をしやすくする効果を発揮します。イメージ的には、「1回ですっきり出す」という感じです。 α1受容体は、前立腺や膀胱だけでなく血管の平滑筋にも存在しています。そのため、こういったクスリを使用すると血管の平滑筋が弛緩して血圧が低下するため、場合によってはめまいやふらつきといった症状を起こす可能性があり、重度になると起立性低血圧といって立ち上がったときに倒れてしまうこともあります。じつは以前、当連載で高血圧について触れたときに、α1受容体遮断薬を取り上げました。その成分の中には前立腺肥大症ではなく降圧薬として用いられるものもあるのです。 α1受容体遮断薬は、前立腺肥大症と診断された際の第1選択となることが多いです。使い始めから効果が出るまでの期間も比較的短いので、効果を実感しやすいクスリだといえます。 次回も前立腺肥大症に用いられるクスリについてお話しします。 (東敬一朗/石川県・金沢市「浅ノ川総合病院」薬剤部主任。薬剤師)