『海のはじまり』水季が海を産むことを決意した理由 池松壮亮が見せた言葉にできない感情
亡くなった人の真の思いを知ることは難しい。その探求は時に周囲の人々を傷つけることもある。しかし、その人の過去の思いに心を寄せることで、今を生きる誰かを救う力となることもある。すでに世を去った水季(古川琴音)の人生を、残された人たちの記憶を通じて丁寧に辿っていく『海のはじまり』(フジテレビ系)第6話。 【写真】津野(池松壮亮)と話す夏(目黒蓮) 夏休みに入り、夏(目黒蓮)が南雲家で過ごす1週間が始まった。初日の朝、夏が目を覚ますと、すぐ隣でスヤスヤと眠る海の姿があった。驚いて飛び起きる夏とまだ眠いと子どもらしく駄々をこねる海(泉谷星奈)。翔平(利重剛)が優しく部屋に顔をのぞかせ、夏はようやく自分が南雲家に来ていたことを思い出す。しばらくすると海もゆっくりと目を覚まし、夏の新しい日常が始まった。 朝食後、夏が海の髪を結おうと申し出ると、海は「やって!」と目を輝かせて喜ぶ。やはり、ここで思い返されるのは、前回弥生(有村架純)に教えてもらった三つ編みのシーン。観ているこちらも「ついに……!」と期待が高まったところで、「編み込みがいい!」と海が突然リクエスト。夏は困惑し、どうしようかと戸惑う。そんな夏の様子を見ていた朱音(大竹しのぶ)は、クスクスと笑いながらも温かい目で見守っている。不器用ながらも真剣に三つ編みを練習してきた夏の誠実な努力は、朱音の心にしっかりと届いていた。 その後、夏と海は思い出の場所へ向かう。かつて海と水季が暮らしていたアパートだ。狭く殺風景なワンルームを見渡す2人。海の言葉からは、まるで今にも水季が帰ってきそうなリアルな思い出が垣間見える。大家が「きちんとしたお母さんでしたよ」と言うのを聞いて、夏は驚く。自由奔放なイメージだった水季が、実はしっかりと母親として海を育てていた一面を知り、夏の中で水季の印象がまた少しずつ変化していく。夏は海、そして水季の過去をより深く理解し、向き合い直そうとしていたのだろう。 第6話では、水季の人となりや考えを辿っていくような描写が多く見られた。特に印象的だったのは、生前の彼女をよく知る津野(池松壮亮)の言葉だ。図書館の鍵を開けてくれた津野は、子どもの扱いに長けており、海が何を喜ぶかもよく理解している様子が伺える。 海がまだ0歳のころから水季が働いていたという事実を知った夏は、さらに水季について知りたいという思いを強くする。夏は、病気のことについて朱音たちに直接聞くのをためらい、津野に話を聞こうと決意。 しかし、水季の最期について尋ねられた津野は「思い出したくないです」ときっぱりと断る。それでも諦めず「知りたい」という気持ちを強く持ち続ける夏に、「月岡さんより、僕の方が悲しい自信があります」と津野。その言葉には、水季との深い絆と喪失感が滲み出ていた。プロデューサーの村瀬健も「池松壮亮さんにしかできない表情。津野が抱えている言葉にできない感情のすべてが込められていたと思います。素晴らしすぎて言葉がないです。圧巻です」とこのシーンを絶賛しており、第6話のテーマを印象付ける大きな見せ場となっていた。 津野が夏の編んだ海の三つ編みをほどく瞬間、夏の努力の跡が消されていくようで、胸が締め付けられる。しかし、「夏くんのおかげでふわふわになった!」と無邪気に喜ぶ海の姿に、思わず安堵の表情を浮かべた表情を浮かべた視聴者も多かったのではないか。 津野には津野なりの、そして夏には夏の、水季との思い出に根ざした深い悲しみがある。そこに優劣は決して存在しない。しかし、今後の展開の中で、夏が何も知らずに過ごしてきた時間に、津野の心の中に培われてきたものを知ると、物語の見え方が少し変わってくるのだろう。 さらに第6話では、水季が海を産むことを決意した理由が明らかになる。朱音に「何かあって産むことにしたの?」と問われた際、水季は「神様のお告げ」と軽い調子で返答していた。しかし実際には、彼女の決断の背景には、過去に弥生が病院のノートに残した言葉があった。7年前、2人は「病院の意見ノート」を通じて“出会って”いたのである。 弥生の記した「どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。あなたの幸せを願います」という言葉に、水季は深く心を動かされ、涙を流しながら海を産む決意をした。弥生が知らず知らずのうちに、水季と海の出会いの運命を導いていていたのだ。水季の残した足跡を辿る中で見えた“海のはじまり”に、すでに折り返しを迎えた本作の真髄を見た気がした。
すなくじら