シナイ半島 自衛官の“多国籍軍”派遣に「疑問」
「安全保障関連法」で可能になった停戦監視などの自衛隊の活動が中東で始まります。「国際連携平和安全活動」と呼ばれ、4年前の法改正で新たに設けられました。具体的には「多国籍監視軍」(MFO)に自衛官を派遣しますが、元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は、これは国連の「平和維持活動」(PKO)の延長のようなものではなく、多国籍軍への参加であり、日本が国際紛争に巻き込まれる恐れがあると警鐘を鳴らします。美根氏に寄稿してもらいました。 【図表】そもそも「安保関連法案」とは? PKOや他国軍の後方支援をどう規定
安保法でPKOの範囲を超えた活動も可能に
日本政府は4月19日から11月30日まで、エジプト・シナイ半島で活動する多国籍監視軍に自衛官2人を派遣します。これは2015年に成立した安全保障関連法(2016年3月施行)の一つである改正「国際平和協力法(PKO協力法)」を適用する初めてのケースです。新設された国際連携平和安全活動(同法第3条2項)として行われます。 それまで日本では、自衛隊は国連のPKOへの参加のみ認められていました。しかし国際平和協力法の改正によって、紛争下での住民保護や停戦監視など、従来のPKOの範囲を超える活動にも一定の範囲で参加できるようになりました。
多国籍軍は「紛争中」の場所に派遣される
この国際連携平和安全活動は、一見、PKOの延長という性格のように見えますが、実態は多国籍軍の一形態であると思います。国連が「多国籍監視軍(MFO=Multinational Force & Observers)」と呼んでいることにもその性格が表れています。 ただ、多国籍軍への自衛隊派遣は一般的にいって、日本国憲法に違反している疑いが濃厚です。政府は、派遣されるのは司令部であり、現地は安全な地域だから日本のPKO原則に照らしても問題ないとの趣旨の説明をしていますが、もっと基本的な問題があります。 国連は、世界各地で発生する紛争を鎮め、平和を回復することに努めていますが、紛争が「終了した後」と「まだ終了していない」場合を区別し、前者をPKOとして、国連の指揮下にある各国の部隊を派遣しています。これまで日本も参加してきました。 それに対し、後者の紛争がまだ終了していない場合についても国連は関与しますが、国連として部隊を派遣することはありません。国連憲章では、平和の実現のために国連が軍事力を用いること、つまり「国連軍」を派遣することが想定されていますが、実際には拒否権が行使されるため、この規定は実現不可能になっています。事実上、国連に「国連軍」はないのです。 そこで、紛争がまだ終了していない場合には、限定された数の国だけが参加する多国籍軍と呼ばれる部隊が構成されるようになったのです。2003年のイラク戦争は、その典型的な例でした。 今回、日本政府が自衛官を派遣するシナイ半島の多国籍監視軍は、四次にわたる中東戦争の後、エジプトとイスラエルが締結した平和条約に基づいて1982年に創設されたもので、国境地帯の平和維持を目的とし、両国軍の展開状況や、活動、停戦の監視などを主な任務としています。これも多国籍軍の一種です。