シナイ半島 自衛官の“多国籍軍”派遣に「疑問」
「国際紛争に参加せず」の憲法の規定に反する?
多国籍軍をめぐって各国の姿勢は分かれます。多国籍軍を国連として承認したかでさえ不明確であり、決議の有無が新たな紛争の原因になることもあります。実際、イラク戦争の場合にそのような問題が発生し、決議はあったとする米英などと、なかったとする仏独などの意見が対立しました。 日本の場合、憲法は、日本が国際紛争に参加したり、巻き込まれたりすることを厳禁しています。これは第9条にある、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という規定であり、自衛隊が「武力の行使」をできるのは自衛の場合だけであり、自衛ではない第三国間の国際紛争に日本が参加したり、巻き込まれたりしてはならないと定めているのです。多国籍軍への自衛隊派遣はこれに抵触する可能性が高いといわざるを得ません。 なお、日本政府が説明している、「シナイ半島のMFO司令部は安全な場所だ」という点について、安全かどうかは極めて微妙です。安定的に安全な場所なのであれば、PKOになるはずです。しかしシナイ半島では、PKOではなく、多国籍軍が活動しています。同地が安定的に安全ではないからです。また、情勢は比較的短期間に変化することがあり、現時点で安全でも数週間後には安全ではなくなっていることがあります。 2001年のアフガニスタン戦争、そしてその2年後のイラク戦争の際、政府は多国籍軍を率いる米国に協力することを政治的に決断しました。そして特別措置法をつくり、戦闘が行われていない場所(非戦闘地域)に限定すれば、自衛隊が米軍などに物資の輸送や道路の補修などの後方支援を行うことは可能だとみなし、参加させました。 しかし、派遣先の地域は果たして安全なのか、当時問題になりました。日本政府は、自衛隊は非戦闘地域に限定して派遣されるので安全だと説明しましたが、例えば物資輸送を取ってみても紛争当事者のどちらか一方のために行うのであり、もう一方の当事者から見れば敵対行為と取られる危険がありました。 その後、日本政府は、自衛隊派遣のたびに特措法をつくるのでは機動的に対応できないと考え、2015年に、「国際平和支援法」を制定して、アフガニスタン戦争やイラク戦争と同様の事態が発生した場合には、特措法によらずとも、いつでも自衛隊を派遣できるようにしました。しかし、この国際平和支援法もまた、憲法に違反している疑いが濃厚です。 今回、自衛官を派遣する法的根拠は「国際平和協力法」の方で、「国際平和支援法」とは一線が画されていますが、諸外国にとっては、どちらの法に基づく業務であっても日本の多国籍軍への参加に変わりはなく、日本はやはり国際紛争に巻き込まれる恐れがあります。今回の日本政府の派遣の進め方は「なし崩し的」なやり方のように感じます。