井上尚弥を抑えて受賞…2023年の世界戦で「17階級で最高」と評された日本人・重岡銀次朗の“衝撃の試合”
プエルトリコの元世界王者から助言をもらう
プエルトリコ滞在中、一日だけだが銀次朗は現地でトレーニングした。訪ねたジムで、WBOミニマム級で11度、同ライトフライ級で6度の防衛に成功した元世界チャンピオンのイヴァン・カルデロンと出会うことができた。 身長152センチと小柄なサウスポーであるカルデロンは、銀次朗と共通点が多い。49歳になった彼は、現IBFミニマム級チャンピオンの動きを見ながら、幾つもアドバイスを与えた。向かい合い、シャドウボクシングをしながら指導する時間も設けてくれた。 「自分は相手の攻撃を足で捌くタイプなんですが、カルデロンさんに『フットワークだけじゃなく、パンチを放ったら頭を振れ』とアドバイスされました。そんなことを言ってくれる人はこれまでにいませんでしたので新鮮でしたし、とても印象に残りました」 小学4年の終わりからボクシングを始め、故郷、熊本の開新高校が生んだ5冠王者として、鳴り物入りでプロ入りした銀次朗は、アマチュア時代から負けを知らない。高校1年次のインターハイ予選、熊本県大会の決勝では、試合開始ゴングと同時にセコンドがタオルを投入したが、これは対戦相手が実兄の優大で、監督が兄弟に殺し合いをさせるわけにいかないと判断したが故の棄権である。 順調に歩を進めてきた銀次朗が、更なる高みを目指してギアを入れようとする際、絶妙のタイミングでカルデロンから助言を受けた。2階級を制したプエルトリカンの言葉は、スッと胸に入った。 「より上のステージに行くためにも、世界を広く見て、経験を積まなければと感じました。可能な限り早い段階で、海外キャンプを張りたいですね」 国民のおよそ43パーセントが貧困層に括られるプエルトリコで、カルデロンも犯罪の横行する治安の悪い地区で育った。また、トリニダードは自身の出世試合となったWBCウエルター級王者、オスカー・デラホーヤとの統一戦の折、「Paz Para Viequez(ヴィエケス島に平和を)!」と描かれたプラカードを側近に持たせて超満員のアリーナに登場した。 当時、米海軍がアメリカ領土内で唯一実爆弾を用いた演習を行っていたのがプエルトリコの離島、ヴィエケス島だ。海軍が使用する劣化ウラン弾で海は汚れ、島民に死者が出ていた。トリニダードはプエルトリコ出身の著名人らと結託し、『ニューヨークタイムズ』に意見広告を掲載するなど、同胞の人権を守るために奮闘していた。彼らの拳には、酷遇されるプエルトリカンの立場を代弁するプラスアルファも秘められていた。 「自分はこれから、そういうものを背負った大物とも戦っていくわけです。だから、技術だけじゃなく、色んな経験をしたいですね。どんな相手でも、目の前の選手を倒さなければ、トップには立てませんから」